第13話

「試してみてもいいですか」 はずした半透明の内キャップに貼りつけられたシール状のストライカーを燃焼棒に近づけながら口にしたガラの質問に、

「駄目だ。いったん火がついたら消火も再利用も出来ないから」 ライがかぶりを振ると、ガラは素直に発炎筒の蓋を元に戻した。

「それと、これを徹底してくれ――ガソリンの瓶の蓋とその発炎筒の長い蓋と内側の蓋、三点を必ず持ち帰ってくれ」

「火がついたあと、扱いをしくじって消える可能性は?」 差し出した発炎筒を受け取りながら、もうひとりのがそんな質問を発する。ライはそちらに視線を向けて、

「火をつける前に水に濡れたら、着火をしくじる可能性がある――そうでなければ、大丈夫だ。いったん着火すれば、水の中でも火は消えん」 そう答えてから、ライは足元に残った最後の一本を拾い上げてかたわらのメルヴィアに差し出した。

「君がこれを持っててくれ」

「わたしも?」 条件反射で手を出しながら聞き返すメルヴィアに、ライは小さくうなずいた。

「そうだ――俺たちふたりの配置場所の下に、連中の装備がまとめて置いてある。ガソリンを撒いてから発炎筒を投げ落とす――装備品を焼き払えば、奴らは丸腰だ」

 ライの意図を悟って、メルヴィアが小さくうなずいてみせる。

「わかった」 その返事を確認して、ライは足元に描いた日の字の様な図形に視線を戻した。

「じゃあ、それぞれの役目と動きを確認する。全員で北側から接近――のふたり以外はそれぞれ散開、東西の入り口の陰で三人ずつ待機。ガラたちふたりはこの角にある桶――」

 そう続けるとふたりが心底嫌そうに『ウウウウウ』とうなるのが聞こえたが、ライはとりあえず黙殺して先を続けた。

「――桶の中身を半分ずつ袋に移して、西側の階段から兵舎の窓に接近しろ。俺とメルはその間に南東の角、物見台同士をつなぐ通路の東側に位置する――甲冑を着てて音もするだろうから、途中で発見されるかもしれないがそこは気にするな。もし発見される様なら、こっちから支援射撃を撃ち込む――その場合はもう、状況の変化を待たずに袋を投げ込め」

 ふたりの兵士がうなずくのを待って、ライは舌先で唇を湿らせながら続けた。

「君らが発見されずに待機位置までたどり着けた場合は、俺たちふたりが奴らの荷物に火を放つのを待て。だがもし兵舎の中から発見される様なら、こっちの態勢が整うのを待つな――いいな」

 その言葉に、ガラたちふたりがうなずく。

「なにか意見や、作戦の欠陥に気づいたら教えてくれ」

「兵舎の東側の出入り口は?」 まだ若い兵士の口にした問いに、そちらに視線を向ける。

「敵が出てきたら俺が撃ち落とす。あとふたりいれば、そちら側も封鎖出来るんだが――まあいないものを愚痴っても仕方無い」

「わたしは?」 発炎筒を翳して口にしたメルヴィアの問いに、ライは『日』の右下の一角を指差した。

「君の役目は敵が俺に気づいて接近してきたときの対処だ。もちろん、自力で対処は出来るが――出来れば射撃に集中したい」

「わかった。任せて」 大きくうなずくメルヴィアにうなずき返したところで、ガラが口を開いた。

「条件がひとつ」

「なんだ?」

「王都に戻る途中で、ライの家の風呂を使わせてください」

「わかった」

 ライが承諾すると、兵士たちは立ち上がって斜面へと歩き始めた。

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