第20話
そんなことを考えたとき、左手で異形の弓を保持した若者が広場へとつながる斜面の上から姿を見せた。
暗い色合いの茶色を主体に濃緑や黒を斑点状に散らした様な特異な染色の狩猟装束を身に纏い、外套と一体になった頭巾を目深にかぶって口元も布で覆っている。
彼は上になったひとりの髪の毛を左手で掴んで頭を引き起こすと喉笛を引き裂いてから体ごと脇に投げ棄て、続いてその賊の体の下敷きになっていたもうひとりの賊の背中を足で押さえつけた。背骨の脇から肋骨の隙間を通して
「ふん」 ふたりの賊にとどめを刺したところで血まみれになった
「ホウ――コレハコレハ」 それが彼の母語なのか、
そちらに視線を向けたまま、ライが目深にかぶっていた頭巾を背中に払いのける――口元を覆う覆面を顎先に引っかける様にしてずり下げると、その容貌があらわになった。
格子の中に囚われている若者たちと同じ民族だろうか――黒い髪はやや色素が薄く、太陽を背負うと赤毛に見える。額の左側、眉尻の上あたりに水平に走った小さな傷跡が肌と頭髪の生えている範囲にまたがっているために、彼の髪の生え際は毛根をえぐられて雑に扱った磁器の縁の様に一部欠けている。
もともとは造作も整っていたのだろうが、今は頬の肉が削げ落ちて厳しげな印象を受ける――右頬にふたつ並んだ泣き黒子が彩る双眸は、相対する者を視線だけで斬り裂きそうなほどに鋭い。黙っているときは奥歯を噛む癖があるために引き締まった口元につられてやや険しげな目つきが剣呑な印象に拍車をかけているが、笑うとどんなに穏やかな表情を見せるのかをリーシャ・エルフィは知っている。
「ニ――ニホンゴ? ア――アンタ、ニホンジンカ。タノムヨ、タスケ――」 言い募る若者たちの言葉を、ライは適当に片手を挙げて制した。
「ワルイガ、イマハシゴトチュウデナ。ハナシハアトデ――」 格子を掴んで話しかけてくる若者にそう返事をして――それで言葉が終わりなのか、それとも途中で切ったのか。それはリーシャ・エルフィにはわからなかったけれど。
警告を与えるいとまも無かった――あるいはリーシャ・エルフィに警告などされるまでもなく、最初から気づいていたのか。
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