第28話
あの煙はさぞかし酷い臭いがすることだろう――兵舎の内部は今や、人間のいられる環境ではない。窓から逃げ出せばガラたち二名にやられ、入り口側から逃げ出せばライの射撃が待っている。中にとどまれば酸欠だ。
そんなことを考えながら――ライは新たな矢をコンパウンド・ボウにつがえ、弦を引き絞った。標的は兵舎の入り口から転がり出てきた、頭髪の薄くなった中年の男。
頭を撃ち抜かれた賊が、そのまま横殴りに倒れて壁上通路から転落してゆく――通路と地上の高低差は約二十メートル、今の矢が急所をはずしていたとしても生き延びるすべは無い。
新たな矢をコンパウンド・ボウにつがえながら、次の標的を探す――こちらを見つけたらしく指で差しながらなにかをわめいていた若い男が、右胸を射抜かれて崩れ落ちた。標的を貫通した矢が、牢獄への入り口脇の壁に当たって衝撃でふたつに折れる。
手前にいた賊がそれに気づいて背後の仲間を振り返り――ちょうど眉間を狙って撃ち込んだ矢が吸い込まれる様にして左耳の上あたりに突き刺さり、脳を斜めに貫通しておそらく右目の眼窩あたりから飛び出した。頭蓋を砕きながら貫通した矢が後方の砦の構造物に衝突し、派手な音を立てて折れる――瞬時に脳の機能を停止せしめられた賊が、乱雑に投げ出した芋袋の様にどさりと音を立ててその場に倒れ込んだ。
これで十六人――そろそろいい頃合いか。
そんなことを考えたところでふたりの賊が金切り声をあげながら、牢獄のある地下への
おっと――それは困るな。
そんなことを胸中でつぶやいて、ライは引き絞った弦を放した。撃ち出された矢が先行していた男の膝を裏側から撃ち抜き、男がもんどりうって
「――っぎゃぁぁぁあぁぁぁぁあああぁっ!」
よし――これで十八人。半分近くまで削ったし、そろそろ同一の射線上にふたり以上が重ならなくなってきた。いい加減
そろそろ賊たちも平静を取り戻しつつある――攻撃を仕掛けているのがたったひとりの
それでは困る――もうしばらくあわてたままでいてもらわなくては。そしてそのために
新たな矢を手に取りながら、ライは待機している味方の兵たちに向かって声をあげた。
「
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