第26話
焚き火の左側に座り込んでいた、ぼさぼさ頭の大男――といっても栄養状態がよくないので、庶民の平均身長よりも若干背が高いという程度だが――が立ち上がって周りを見回すその背後で、すばしこそうな小柄な男が地面に寝転がって大鼾をかいている。
寝転がった男は作業用のものだろうが、短剣を持っている――先に殺しておくべきだろう。眠っている敵を眠っているまま殺せるなら、それに越したことは無い――死体は戦闘に参加しない。
コンパウンド・ボウは同程度の大きさの弓よりもいくらか張力が強く、そのぶん発射時の
狙いを定めて弦を放した次の瞬間、解き放たれた矢がモヒカンの大男の右の太腿を貫き、そのまま彼の背後で寝転がっていた小男の胸郭を撃ち抜いた―― 手前にいたモヒカンの男がその間に崩れ落ちて転げ回り、寝そべっていた小男が口から血を吐き散らしながら喉を掻き毟る。
撃ち込んだ矢はモヒカンの男の脚を完全に通り抜けているが、同時に小柄な男の胸骨の左側から入り込んで肋骨の隙間を通り、脊椎の右側を抜けて胸郭を貫通し、しかしその体内を完全に通過する事無く鏃が地面に深く喰い込んだ状態で止まっている――矢羽根の後ろ半分程度と筈だけが、小男の胸から顔を出している。
胸を斜めに貫かれ地面に磔にされた小柄な男は、もはや身を起こすことさえかなうまい――身動きは取れないし、急いでとどめを刺すことを考える必要も無い。矢は左右の肺を貫通している――心臓近くの大血管も傷つけているだろう。あとは体内への大量出血で失血死するか、それともその出血で肺胞が濡れてガス交換が出来なくなり自分の血で溺れ死ぬか。
即死はしていないが、これで十分だ――なにも全員に致命傷を与える必要は無い。抵抗出来ない程度に痛めつければそれでいい――行動不能にさえしてしまえばとどめはアーランド兵が刺してくれるし、味方の悲鳴は混乱に拍車をかける。
間断無く加えられる位置不明の敵からの攻撃、そのたびに斃れる仲間、次々とあがる絶叫――次の瞬間には自分に矢が刺さるかもしれないという焦燥は、冷静な思考能力を奪う。
今頃地上にいる賊たちは自分が取るべき善後策を次から次へと考えて、けれどどの選択肢を取るべきか決めかねて混乱に陥っていることだろう――攻撃者を見つけ出して始末すべきか、仲間の救助を優先すべきか、とにかく掩蔽物の陰に隠れるべきか、それともこの場所からの脱出を考えるべきか。
広場への入り口はアーランド兵が固めているから、逃げられても別に問題は無い――仮にアーランド兵が討ち漏らしてここから逃げられたとしても、ライの射撃で傷つけさえすれば、それで連中が生き延びられない様にする算段はしてある。
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