第37話
あるいは
まあ考えても仕方無い――どうせ伝説の真相がどうあれ、今の状況にはなんの影響も無い。
バスの周りに残っていた足跡から数えた限り、
『
水源地までは直線距離でも十数キロ、川までだって二キロは離れている。さらに高低差も数百メートル――しかもポリタンクの様な扱いの容易な資材は存在しない。汲んだ水をここまで運んでくるだけでも、一苦労どころか十苦労くらいはあるだろう。
あの連中がそんな場所に、そう長いこと住みついているとは思えないが――
「一時的なものだよなぁ……たぶん」
そもそも王女など誘拐してどうするのだろう?
人質としては極めて強力だ。だが強力すぎて諸刃の剣だ――王女がたとえ生還しても追討の手が緩められることは無いし、もし凌辱などされようものなら君主によっては王女を殺して罪を犯人になすりつけ、仇討ちと称して軍を発するだろう。
下賤な蛮族に純潔を奪われた子女など、王侯にとっては使い物にならない――政略結婚の道具としての価値は無い。
それならいっそ殺してしまったほうがいい――君主によってはそう考えるだろう。
王女リーシャ・エルフィの場合は隣国エルディア王国の王太子ゾット・ルキシュ・ド・エルドーラの婚約者なので、この拉致事件の影響は国内のみにとどまらない――貴族に自由恋愛による結婚が無いわけではないし今回もその例に漏れないが、同時にそれによって生じた縁故を利用して最近回復した二国間の国交をより強固なものにするという政治的な目的もある。
デュメテア・イルトは娘を愛している様に見えるが、それはそれ、これはこれだ――王侯貴族が純潔を奪われた娘を誰かに
もし連中が王女を穢せば、王女は家族の元に帰るや否や賊によって殺害され、その犯人に仕立て上げられた賊たちは国軍全軍で
そもそも王女が誘拐された時点で、王侯にとっては自分たちの面子にかかわる大問題なのだ――王女の身辺の無事や生死のいかんにかかわらず、いったん手を出したが最後追討の手が緩められることは絶対にあり得ない。
ろくな教育も受けていない蛮族とはいえ、ゴロツキ稼業で生き延びてきた連中だ。そういったリスクに考えが及ばないとも思えないが――
「まあ、行ってみればわかるか――」 そんなつぶやきを漏らしながら、ライは簡単に砦までのルートを確認した。ここから砦までの間には疎林がいくつかあるが、その中で一番近いものは砦から百メートルほど。砦と自分の間にその疎林を置きながら進めば、疎林の手前までは発見される事無く近づける。
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