第2話

 助けを求めようとしたが、駄目だった。今思えば、そもそも道もろくに整備されていない場所を外装にべっとりと血糊がこびりつき、さらに矢が突き刺さった馬車が走っている時点で、ろくなものではないと気づくべきだったのだ――今さら言っても詮無いことではあるが。

 言い訳を並べるなら傷病者の手当の技能スキルを持った者がひとりもいない状態だったために恐慌状態に陥り、相手も確かめずに助けを求めて泣きついてしまったというところか。

 彼らは――現代日本では非常に縁の薄い言葉ではあるが――盗賊か山賊のたぐいであったらしく、声をかける、あるいは彼らがこちらに気づくや否やわけのわからない言葉で(この点に関しては彼らにとっての日本語も同じだろうが)叫び出し、続いて襲いかかってきたのだ。

 彼ら――星城高校三年C組の面々の中には、空手や柔道をやっている者もいた。冷静さを保っていれば――保てるかどうかは別として――、ひとりふたりなら捌けたかもしれない。

 だが、数が多すぎた――相手の人数は三十人ほど、しかも驚いたことに山賊たちは剣を抜いて襲いかかってきたのだ。


 剣!


 現代日本ではファンタジー映画と漫画、でなければロールプレイングゲームやその攻略本のイラストくらいでしか目にすることの無い代物だ――あとは剣と銃を使うスタイリッシュアクションとか。

 山賊たちは人を相手に剣を振るうことに慣れているらしく、彼らに向かって剣を振り下ろすことにまったく躊躇が無かった。

 仲間の中には空手や柔道などの格闘技の心得がある者もいたが、なにせ抜き身の刃物を持って躊躇無く斬りかかってくる様な相手になど抗するべくもない。学生がかじった程度の格闘技では、どうしようもなかった。

 結果抵抗を試みた数人が剣で斬られ、あるいは棍棒で殴られて――山賊が間合いの目測を誤ったのか生徒がなんとか躱したのか、致命傷にはなっていなかったが――、残る者たちは数人が抵抗の意思を無くさせるためか殴られて、最終的に全員ロープで拘束されこの山砦に連れてこられて投獄されたのだ。何人かは負傷者を運ばされて、疲労困憊といった有様だった。

 彼らが自分たちをどうするつもりなのかは、わからない――どこかに売り飛ばすか、あるいはとして食べるつもりなのかもしれない。ここがどういう場所なのか、彼らがどういう文化を持つ民族かわからない以上、その可能性は無視出来ない。

 山賊たちは車内を調べ、何人かが暇潰しに車内に持ち込んでいたライトノベルやスマートフォンなどを持ち出した。日本語の文章が読めたりスマートフォンの使い道がわかるわけでもないだろうから、物珍しいものをとりあえず持ち出しただけだろう。彼らは革製の鎧を身に着け剣や棍棒で武装していたから、文明程度そのものが彼らのいた日本とは違うのだろう――問題は、なぜ自分たちがそんな頓珍漢とんちんかんな場所にいきなりほっぽり出されたのかということだが。

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