第2話
靴を履き外へ出ると、門の柱に少女が寄りかかっていた。
彼女は星夜の幼馴染、桜木夜月(さくらぎよづき)だ。普段は髪を下ろしている長い髪を、暑いからか後ろで一つに結い上げていた。
柱に凭れ掛かり本を読んでいた。集中しているのか、星夜が家から出てきたことに気付いていなかった。
「おはよう夜月、暑いなか待たせてごめんね。」
星夜は夜月に近付いていき、前から顔を覗き込んだ。声をかけられた夜月は読んでいた本から顔を上げ、星夜と目が合うとふわりと笑った。
「おはよう星夜。大丈夫だよ、そこまで待ってないから。」
そう言いつつ、夜月は読んでいた本を閉じて鞄にしまった。
「それならよかった。でも9月とはとはいえまだ暑いし、待つんだったら家の中で待っていてくれても良かったのに。ま、とりあえず行こう?」
ほっとした顔でそう言うと、星夜は夜月を見ながら歩き出した。季節は秋に入りはじめる9月でも暑さは残り、今日も動いていると軽く汗が滲む気温だった。外で待っていた夜月の首筋にも軽く汗がにじんでいた。
「いうほど暑くはなかったしすぐ出てくると思ったから、外で待ってたんだよ。ちょっとの間だし大丈夫だよ、気にしないで。」
夜月はそう言いながら、星夜の横に並んで歩き出した。
「ならいいけどね。そういえば、里穂さんたちまた海外で仕事なんだってね。前はアメリカのロサンゼルスだったけど、今回はどこまでいくの?」
星夜は夜月のほうを向きながら問いかけた。夜月は上を向きあごに手を当てながら、う~んと唸った。
「…たしかフランス?だった気がする。大きい楽団のゲストに呼ばれてるんだって。」
「フランスか~、また遠いところに行くね。いつ帰ってくるとか聞いてるの?」
星夜は横を向いたまま夜月に聞いた。
「2週間後って言ってたな。…それにしてもごめんね。毎回うちの親が家を空けるたびにお邪魔して。もう高校生だし一人でも全然いいんだけど。」
夜月はしゅんと下を向いて落ち込んでしまった。
星夜は立ち止まり身体ごと夜月の方へ向き、肩に手を置いた。
「うちの家族は誰も迷惑だなんて思っていないよ。母さんなんて夜月が家に来ることすっごく喜んでるし、むしろ小さいと時みたいにもっと頼って欲しいって言っていたいよ。だから何も気にせず、いつでも家に来なよ。」
真剣にそう言った後、星夜は笑いながら夜月の頭を撫でた。
夜月は泣きそうな顔になりながらも、星夜の手を掴んで退けようとした。
「ちょっとっ、やめてよ、髪が崩れる!…でも、そっか。高校生にもなって頼り切りは迷惑かと思っちゃってさ。うん、そう言ってもらえて嬉しいな。」
夜月は抵抗をやめて、ふわりと笑った。
その様子を見て、星夜はほっと胸を撫でおろした。
「俺たちはもう家族みたいなものだし、今更って感じゃない?だから気にしない、気にしない。」
そう言って夜月の頭から手を離すと、夜月を促して歩き出した。
夜月も促されるまま、星夜の横に並んで歩き出した。
「そうね、確かに今更ね。気にした自分が馬鹿らしくなる。ありがとう、星夜。」
夜月は晴れやかな顔で星夜に向かって言った。
「どういたしまして。あ、そういえばさ。夜月が貸してくれた小説、めっちゃおもしろかったよ。最後の方が想像していたのと全く違くて、いい意味で裏切られたよ。」
「本当に?よかった、おすすめして。王道ストーリーだけど意外性もあって、飽きずに読めるのよ。サイドストーリーに焦点をあてた小説もあるから、新しく買って小説と一緒に貸すね。」
「うん、ありがとう。貸してた漫画も読み終わった?それの続き貸すね。」
2人の話題は、共通して好きな本の話へ移った。お互いに読むジャンルや種類が異なるため、頻繁に本の貸し借りをしていた。
「うん、わかった。借りてる漫画はもうちょっとで読み終わるから、もうちょっと待って。」
2人はそのまま本の話をしながら歩いて行った。しばらく話しながら歩いていると、二人の通う学校である清川高校(きよがわこうこう)が見えてきた。
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