流れ星が消える前に
松理 音
第1話
「…そろそろだな。」
そう言い時計を見ると、針は7時30分を指していた。そう言った青年、李籐星夜(りとうせいや)は中途半端だったワイシャツのボタンをしめ、椅子の背もたれに掛けていた紺の薄手のカーディガンを羽織った。
爽やかさが際立つ整った顔に焦げ茶の髪が特徴で、細身だが適度に筋肉のついたバランスの良い身体をした男子高校生だ。普段は優しく穏やかな雰囲気をしているが、家族以外の心を許している者には塩対応になったり、キレたり嫌いな人間への対応で毒を吐くこともある。
準備を終えた星夜は、机の上の学生鞄を肩にかけ部屋を出た。
(忘れ物は…。うん、なさそうかな。)
そう考えつつ階段を降りリビングへ向かうと、星夜の父、李藤隆司(りとうたかし)がテーブルで新聞を読んでいた。
「おはよう。ん?珍しいね、父さんがこの時間まで家にいるなんて。」
星夜が声をかけると、隆司は新聞から顔を上げた。
襟足が少し長めの黒髪に、少し垂れた目が特徴な整った顔立ちをしている。真面目で仕事人間のためか、多くの仕事を掛け持ちすることもしばしばある。
疲れの滲む少し気だるげな様子と、新聞を読むためか普段はかけない眼鏡をしているためか大人の色気がダダ洩れだった。
「星夜か、おはよう。最近仕事がバタついていてな、昨日やっと片付いたんだ。それでしばらくは出勤は遅めなんだ。」
「あ~そうだったんだ、お疲れさま。」
疲れの見える顔でため息をつく隆司に苦笑しつつ、星夜は隆司の向かい側に座った。星夜の目の前にはトーストされたパンと、パンに塗るためのジャムやマーガリンが置かれていた。
「あぁ、ありがとう。」
そう言い新聞に目を戻す隆司に「どういたしまして。」と返し、ニュースが流れるテレビの方へ眼を向けた。ニュースでは、2週間後の深夜に観測できるというオリオン座流星群についての特集をしていた。
「へぇ、流星群。再来週か…。」
星夜はそう呟きながらパンにジャムを塗り始めた。するとキッチンのほうから星夜の母、李籐香織(りとうかおり)がでてきた。
ゆるくウェーブのかかった茶髪を横でゆるく纏め、優し気な目元が特徴の整った顔をしていた。ふわふわとした雰囲気を纏っているが、性格は竹を割ったような性格だ。
「あら、星夜おはよう。降りてきてたのね。飲み物はコーヒーでいいの?」
「おはよう、母さん。うん、お願いするよ。」
「分かったわ。少し待っててね。」
そう言うと香織は再びキッチンに戻っていった。星夜は食べかけのトーストを再度口に運んだ。
そのまま政治やスポーツなどの時事ネタが流れるニュースを観ていると、横からコーヒーが置かれた。
「はい、コーヒー。」
「あ、ありがとう母さん。」
星夜は香織に礼を言うとコーヒーを啜った。香織は自分のカップをもって隆司の横に座った。
「あ、そうだ星夜。今日からしばらくの間、夜月ちゃんがうちに泊まることになったのよ。だから放課後は一緒に帰ってきなさい。」
「え、あ、そうなの?また里穂さんたち家を空けるの?」
夜月とは、星夜の幼馴染である桜木夜月のことだ。艶やかな黒の長髪に、切れ長の目が特徴的な気品のある顔立ちが特徴だ。
「そうなのよ、里穂ちゃんたち今回も海外へ仕事で行くらしくてね。高校生だからそこまでしなくてもいいよって言われたけど、さすがに女の子一人は危ないし預かるって押し切っちゃった♡」
里穂とは夜月の母親の名前だ。夜月の両親はプロの演奏家のため海外での仕事も多く、今回のように長期で家を空けることも多かった。母親同士が親友で付き合いが長く家が隣同士ということもあり、お互いの家にはよく行き来していた。そのため、今回のように夜月の両親が長期間家にいないときは李籐家で過ごしていた。
「たしかにね。てか思ったんだけど、里穂さんたち最近日本にいる時間少なくなってない?」
「元々海外を拠点にしている仕事だからな。仕方ないかもしれないが、ここ1・2
年で急激に多くなった感じはするな。」
今まで会話に入ってこなかった隆司が、新聞から顔を上げずに呟いた。
その後も楽しく会話をしていると、出発時間迫っていた。星夜は残っていたコーヒーを飲み干し、鞄をもって立ち上がった。
「ごちそうさま、時間やばいからいくね。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
「いってらっしゃい。」
両親に見送られながらリビングを後にし、星夜は玄関へ向かった。
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