第2話 たどり着きたい場所

 とりあえず静かな場所へ行こうと思い、胡桃は特別棟をでて自習室へと向かった。数美の言葉を考えながら歩いていたので、昇降口に入るところで人とぶつかりそうになった。


「おお、胡桃。なんだ今から自習室か?」


 小町だった。肩に竹刀をかけているのをみて、彼女が剣道部員だったことを思い出した。


「うん。ちょっと考えなきゃいけないことがあって」


 ふうん、と小町は笑った。


「いい目だな。戦う者の目だ」

「え? そうかな」

「ああ。先日とは見違えるようだ」


 まるですべてを見通しているように微笑んで、小町は胡桃の肩にポンと手を置いた。


「いいか胡桃。彼を知り己を知れば百戦ひゃくせんあやうからず、だぞ」


 健闘を祈る、と小町は言って、昇降口を出て行った。


 自習室に向かいながら、胡桃は考える。


 今の自分のたどり着きたい場所——それは米園英梨華に勝つことだ。

 米園英梨華に勝つということは、つまるところ英梨華よりも1点でも多く点数を取るということだ。


 英梨華は一体どんな点数の取り方をしているのだろう。考えてみれば、自分は米園英梨華のことを何一つとして知らなかった。これまで1位をとってきたのがどういう点数配分だったのか、得意科目、苦手科目、そんなことを一切考慮せず、ただひたすらに自分の点を伸ばすことだけを考えていた。


 情報が欲しい。

 情報を提供してくれる人を探さなくてはいけない。自分は英梨華の友好関係についても何も知らないのである。同級生の生徒会役員に聞いたら教えてくれるだろうか。


 いろいろ考えていると、ある人物の顔が頭に浮かんだ。


「……そうだ」


 胡桃はポケットから携帯電話を取りだし、電話帳からその人物の名前を探し出した。思い悩む前に発信ボタンを押す。


 3コールもしないうちに、その人物は電話に出た。


「もしもし文嘉ちゃん、久しぶり」


 受話器の向こうから、元気な声が帰ってくる。挨拶の言葉を交わした後、胡桃はさっそくこう切り出した。


「あのさ、文嘉ちゃんって英梨華ちゃんの成績表とかって見たことある?」

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