第102話 告白

すっかり覚悟を決めたように、早苗さんの態度は毅然としていた。


「加藤はね、15年前の事件の刑期を終えた後も詐欺や傷害を繰り返して

 刑務所を出たり入ったりしていたのよ。

 1年前に出所した時に、モデル事務所を設立したらしいけど、そんなのは建前。 実態はいかがわしいDVDや写真集の通信販売を手掛けていたみたいね」


そう言って、嫌悪に眉を顰める。


『K企画』だ。

あたしは床の上に視線を落した。

毒々しいチェリーピンクの名刺の周りには、不穏な空気が

漂っているような気がして、あわてて目を逸す。


「2ヶ月前の事よ。加藤はどこで調べてきたのか

 私が望月と結婚した事を嗅ぎつけて、事業を拡大する為の資金を

 融通して欲しいって言ってきたの。

 勿論断ったわ。用立てする義理もなかったし…

 一度でもあんな男にお金を渡せば、骨までしゃぶられる羽目になるのは

 目に見えていたもの。

 それに、事業拡大なんて真っ赤な嘘。

 会社は倒産寸前だったのよ」


早苗さんは淡々と言葉を続ける。


「払う気がないと判ると、今度は望月の出馬の件を持ち出してきたわ。

 私が夜の仕事をしていた事が知れたりしたら、こんな田舎町じゃ

 すぐに噂が広まるだろう。

 そんな事になったら、選挙も戦いづらくなるんじゃないかってね」


強く眉根を寄せると


「余計なお世話よ…」


真柴は軽く伏せていた視線を早苗さんに投げた。


「かなりやばい所に借金してたみたいだからな。

 金をかき集めるのに、躍起になってたんだろうよ」


 その言葉に、早苗さんは歪んだ笑みを浮かべ、吐き捨てるように言った。


「馬鹿な男ね。昔からちっとも変わらない…」

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