第63話 成立
いずみさんに関係する人。
忍、徹ちゃん、岩井のおじさま…
「佐々木さん?!」
いきなり大声を上げたあたしに、怪訝な視線を投げた。
「佐々木?ああ、キャトル・レザンの?」
「知ってるの?」
あたしが、不思議そうな顔をすると
「いずみさんの交友関係を調べていたら、その名前も出てきたよ。
一番仲が良かったらしいな」
調べたって…いつの間に?
唖然としているあたしに、涼しげな笑顔を向けた。
「で、その”佐々木さん”がどうした?」
「あたし、佐々木さんとも電話番号の交換をしてるの。
もしかして佐々木さんが?」
真柴は肩をすくめると
「いずみさんの行方が分からなくなった金曜の夜は会社の同期達と
恒例の女子会で盛り上がってたらしいぜ」
「そう…なの?」
また振り出しに戻ってしまった…
他に思い当たる人物はいない。
ちらりと、真柴の横顔を盗み見る。
一体どこまで事件の真相を掴んでいるんだろう。
あれ?ちょっと待って…
ふと、疑問が浮かんだ.
「ねぇ!そこまで調べてるなら、会社に怪しい男が訪ねて来たのも
知ってたんじゃないの?」
真柴は、ニヤリと笑った。
黙っていても意地悪な笑顔が肯定している。
その顔を見ながら、ため息を吐いた。
結局あたしの情報は何の役にも立たなかったって事?
がっかりするあたしの頭に伸びた真柴の手が、髪をくしゃっと
掻き混ぜる。
「契約成立だ」
「え?何で…だって知ってたんでしょ?」
真柴は、微かに眉尻を下げ
「おれが聞いたのは、妙な男が受付嬢に絡んでたっていう話だけだよ」
「じゃあ…」
「真相が判れば、ちゃんとお嬢にも話す」
「本当に?」
あたしが疑わし気な目をすると、すっと小指を差し出した。
「何?」
「指きりでもする?」
「しないわよ!」
くすくす笑う真柴の顔を睨みつける。
それにしても…
誰が、いずみさんを?
あたしが、深いため息を吐いた瞬間、携帯電話がメールの着信を告げた。
突然の事に、シートからずり落ちそうになるほど驚いた。
おそるおそる、バッグから携帯を取り出す。
メールの相手は…何だ冴子さんか。
「脅かさないでよ、もう…」
あたしは、安堵に胸を撫で下ろしながら、メールを開き
――すぐ閉じた。
最近の生活態度の悪さに対するお小言が、びっしりと書き込まれていたから…
「どうした?」
真柴がさらりと髪を揺らし、首を傾げる。
あたしは、しかめっ面になりながら
「うちの教育係から…最近外出続きだから怒ってるのよ。
あたしにだって、いろいろ事情ってものがあるのに」
今は何よりも、いずみさんを見つけ出す事が最優先の課題。
「そりゃぁ、大変だな…」
真柴の思いがけない返答に、あたしは満面の笑みを浮かべた。
「判ってくれるの?!」
「ああ、よく判るよ。お嬢の教育係の気苦労が」
はぁ?
あたしは、鼻の頭にしわを寄せ、そっぽを向いた。
どうして、こいつはいちいち突っかかるような事ばかり言うわけ?
あたしの手の中で、携帯が再びメール着信を告げる。
「きゃあ!」
思わず電話を放り出してしまった。
足元に転がった電話を真柴が拾い上げ、あたしに差し出す。
「何だか電話恐怖症になっちゃいそう…昨日から変な電話ばかりなんだもの」
ため息を吐きながら、メールを確認する。
冴子さん!もう勘弁してよ…
「昨日の変な電話って?」
真柴が目を細めた。
「え?ああ、昨日、いずみさんのお父様をお見舞いした帰りに
間違い電話が掛かってきたのよ」
そういえば、あの時急いで出たから、番号は確認していない。
着信履歴を検索した。
「あれ?非通知だ…」
その瞬間、真柴の黒い瞳に鋭い光が走った。
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