第62話 推理

「な‥謎の男の情報を提供するわ!」

かなり上ずりながらも、そう告げると真柴は

あたしの顎から手をはずした。

「謎の男?」

「あのね…おとといの話なんだけど…」


いずみさんを訪ねてきたという男の事を

出来るだけ詳しく話した。


「あたしはその男が、いずみさんを拉致したんじゃないかって思うの」

あたしの言葉に、真柴は眉を寄せた。

「仮にそいつが連れ去ったとして、会社に現れた目的は?」

「偽装よ。いずみさんがいなくなった事を知らない振りして

 捜査の対象から外れる為!」


何故だか、真柴は冷ややかな目であたしを見た。

「捜査の対象って…お嬢はいつから刑事になったんだ?

 第一そんな事をしたら、余計に怪しまれるじゃないか。

 現に、お嬢も疑ってるだろ?」


…仰る通り…


「男は何も知らずに、いずみさんを訪ねてきた。

 そう考える方が自然だ」

「でも…」

真柴は苦笑しながら

「どうしても、その男を犯人に仕立てたいらしいな。

 お嬢は、そいつに会った事があるのか?」


突然訳の判らない質問をされ、眉を顰める。

「知るわけ無いでしょ。そんな男」

真柴が目を細めるようにして、あたしを見た。

口元には意地悪な微笑が浮かんでいる。

「面識も無い男から携帯に脅迫電話が掛かってきたり

 車で撥ねられそうになった?」


「あっ!」

思わず小さな叫び声が漏れる。


「犯人はいずみさんに関係している上に、お嬢の携帯番号も

 知っている奴」

さらりと言ってのける真柴の顔を見ながら、あたしの心拍数は

急上昇した。

あたしの携帯番号を知っているのは…


助手席のシートに凭れながら、頭をフル回転させる。

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