第61話 交換条件

突然真柴が言った。


「お嬢も一緒に行くか?」

「え、いいの?」

思わず身を乗り出すと

「お利口にしてればな」

からかうような目をする。

何よ、それ。

まるで幼稚園児扱いじゃない!

喉まで出掛かった抗議の声を、ぐっと飲み込んだ。

ここは、おとなしく真柴のいう事を聞いておこう。

あたしは、黙って大きく頷いた。


「それから」

心持ち顔を近づけながら言う。

「酒は抜きだぞ」

「了解!」

あたしの快諾に苦笑いを浮かべる。

「そうだ、お嬢。いずみさんの写真は持ってるか?」

「忍から借りたのがあるわ」

満足そうに微笑むと

「明日、それを持ってきてくれ」

あたしは頷くと、真柴の視線を正面に捉えて言った。

「あたしも、約束して欲しい事があるんだけど」

その言葉に、ちょっと首を傾げるような仕草を見せる。

「もし真相が判ったら、あたしにもちゃんと教えて頂戴」


真柴は、微かに目を細めると、小さく笑った。

「それじゃ、契約は成立しねぇだろ?」

「契約?」

「そうだ。おれは写真を借りる代わりに、お嬢を店に連れて行く」


眩暈がするほど艶っぽい微笑を湛えた真柴に見つめられ

あたしは、思わず俯いてしまう。


「おれが真相を語る代わりに、お嬢は何を提供してくれるんだ?」

真柴の長い指があたしの顎にかかり、そのまま上を向かされた。

綺麗な切れ長の瞳に、困惑したあたしの顔が映っていた。

心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思うほど、鼓動が早まり

息苦しくなる。


あたしに提供できるものって…提供できる?


…あっ、あった!

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