第54話 決裂
真柴が、フロアーに姿を現した。
30分ジャスト。
テーブルの上に並べられたグラスや空き瓶を一瞥すると
冷ややかな視線を投げつける。
思わず目を逸らしてしまった。
あたしの膝を枕代わりにして、横になっていた徹ちゃんを引き起こすと
その肩を揺すりながら耳元で呼びかけた。
「おい、徹。起きろ!」
僅かに目が開かれる。
「あれぇ、組長。どうしたんすかぁ?」
とろんとした目で、真柴を見上げるとガクッと首を倒し、また
眠り込んでしまった。
「ったく…仕方ねぇな」
真柴が、ため息と共に呟く。
と、次の瞬間、ハッとしたように後ろを振り返った。
鋭い視線をフロアーの奥へと走らせる。
「どうしたの?」
その徒ならぬ様子に声をかけると、軽く首を振った。
「何でもない。それよりお嬢ちゃん。徹を車まで運ぶのを手伝ってくれないか…」
なんとか徹ちゃんを真柴の車まで運び、後部シートに寝かせる。
ふーっ。
あたしは額にうっすら浮かんだ汗をハンカチで拭った。
「じゃあ、あたしはこれで…」
お説教されないうちに、とっとと消えちゃおう。
足早に立ち去ろうとするあたしの腕を、真柴が掴んだ。
「何すんのよ」
その手を振り払おうと、必死にもがく。
「家まで送る」
「結構です!タクシーで帰るから」
真柴は、あきれた顔をした。
掴んだ手に力が込められる。
「酔っ払いの女子高生を一人で帰せるか」
…この間は帰したじゃない…
「ほっといてよ。手を離さないと、大声出すわよ」
左手に持ったバッグを、ぶんぶん振り回し暴れる。
「お嬢ちゃん。頼むから、おとなしく車に乗ってくれ」
「嫌です!絶対に嫌!」
不意に、あたしの腕が開放された。
真柴は前髪を掻き上げると、目を細めるようにあたしを睨んだ。
「勝手にしろ!」
「勝手にします!」
あたしは真柴に背中を向け、歩き出した。
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