第53話 許婚
「あたしはね、1/4なの…」
お酒のせいにして、あたしもちょっとだけ素直になってみたくなった。
「?」
「おばあちゃまがフランス人なの。だからね、あたしはクオーター」
徹ちゃんは、まるでフクロウのように目をまん丸にした。
…別に、いじめや差別があった訳じゃない。
それでも、徹ちゃんの気持ちは解る。
あの日―――――
あたしに蹴りをいれられた忍が、独り言のように呟いた言葉。
『白雪姫は黒髪なのに…あんな赤毛じゃ、おかしいじゃない』
あたしの髪は、他の人に比べたらかなり明るい色をしている。
白雪姫の役が忍に変更になったのは、この髪のせいなのかもしれない…
そう思うと泣きたいほど悲しくなった。
「姐さんが、組長の
徹ちゃんが、にっこりと笑った。
「だから、それは…」
まぁ、いいか。
あたしは、徹ちゃんのグラスにウィスキーを、そして自分のグラスに
ワインを注いだ。
「今日は、思いっきり飲んじゃいましょう!」
―――――乾杯!―――――
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
何度目かのコールの後、相手が出た。
「…片桐ですけど…」
一瞬の沈黙の後、軽い舌打ちが聞こえる。
相手…真柴涼は苛立たしげな声を上げた。
「徹はどうした?」
あたしは、気持ち良さそうに、すやすやと眠る徹ちゃんの
寝顔を見下ろした。
何回目かの乾杯の後、「今夜は最高っす!」という雄叫びを残し
徹ちゃんは倒れこむように眠り込んでしまった。
どんなに声を掛けても、揺すっても起きない徹ちゃんを放置して
帰る訳にもいかず、携帯を拝借して真柴に電話をしてみたものの…
「えっと…徹ちゃんは、あたしの膝の上で寝てます…」
「はぁ?お前ら、何してんだ?」
かなり、ご立腹な様子…
「あの、一緒に飲んでたら酔いつぶれちゃって。
お手数をお掛けして申し訳ないんですけど、お迎えに来て
いただけないでしょうか?」
なるべく丁寧に且つ、下手に出てお願いしてみる。
「飲んでたって…前にも言わなかったか。お嬢ちゃんは未成年だろ?
…まぁいい。説教はそっちに行ってからにする。で、何処にいるんだ」
なんだか、場所を教えたくない気分になってきた…
つい、黙り込んでしまうと
「おい、聞いてんのか!」
鋭い声が響く。
あたしは、渋々お店の場所を告げた。
「30分で行く」
それだけ言って、一方的に切られた電話。
30分…
真柴と顔を合わせると思うと、憂鬱になる。
そっと帰ってしまいたい衝動を必死に抑えつつ、ボトルに残った
ワインをグラスへと注いだ。
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