第52話 絆

「拉致られたなんて思いたくはないけど…

 でも‥誰にも言わずいきなり姿をくらますなんて事、いずみさんに

 限って絶対ありえないっすよ」

「じゃあ、やっぱり…」

長瀬は、真剣な眼差しで頷いた。


一体誰がいずみさんを?

この4日間で得られたのは、みんな曖昧で捉えどころのないものばかり…

何か見落としている事があるのかしら?


あたしが、ため息を吐くと

「オレが余計なお願いをしたせいで、姐さんにまで迷惑をかけてスイマセン」

そう言って、深々と頭を下げる。

「いずみさんの事が心配だったんでしょ?

 …今でもいずみさんが好きなのね?」


長瀬は顔を真っ赤にして頷いた。

あたしは、黙っていずみさんのお父様から預かった

お誕生日プレゼントを差し出す。

困惑したような視線が、あたしの顔とプレゼントの間を

行ったり来たりする。

「あの…」

「やっぱり、これは長瀬さんから渡してあげて」

微かに息を呑み

「でも…」

と言いかけ、口を噤んだ。

「いずみさんに会って、いっぱい話し合って、二人で答えを見つけてみたら?

 こんな中途半端な状態じゃ、お互いに辛いだけでしょ?」


差し出されたままの、あたしの手を見つめる長瀬の瞳は震えていた。

心の中の葛藤と必死に戦っているように。

あたしは、そのままの姿勢でじっと見守る。

やがて、長瀬はおずおずと手を伸ばし、包みを受け取った。

泣き笑いの表情を浮かべながら。


あたしが、小さく安堵の息を吐くと

「姐さん。

 ”長瀬さん”はやめてくださいよ。

 親子結縁盃も済ませたんですから。組長みたく”徹”でいいっすよ」

長瀬の言葉に戸惑った。

いくら何でも、いきなり”徹”って呼ぶのはちょっと…


「いずみさんは”徹ちゃん”って呼んでたのよね?」

「はぃ…」

「あたしも、徹ちゃんて呼ばせてもらってもいいかしら?」


その申し出に、驚いた顔をしたが、すぐに子供のような無邪気な笑顔を浮かべた。

「全然OKっす!」

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