第27話 待ち合わせ
長瀬徹哉とは、仕事が終わるという17時半過ぎに会社の近くで
待ち合わせをした。
指定された喫茶店は、賑やかな表通りに面していたが
一歩店に入ると、外の喧騒が嘘のように、ゆったりとした
雰囲気に包まれていた。
こじんまりとした店内には、いたるところに花が飾られ
優しいピアノの音色が流れている。
あたしは、案内された席につくと、ぼんやりと窓の外を眺めた。
夕方といっても夏の陽は長く、街は昼間の明るさを保ったままだった。
「お待たせ」
その声に顔を上げたあたしは、そのまま固まった。
真柴涼!
「な、なんで、あんたが来るわけ!」
真柴は澄ました顔をして、あたしの向かいに座った。
「長瀬さんは?」
「徹?ああ、急用が出来てな。代理でおれが来た」
嘘だ!絶対、嘘!
あたしが、露骨に嫌な顔をしているのに、アイスコーヒーを注文して
実に美味しそうに飲んでいる。
一体どういう神経をしてるんだろう。
「なあ、お嬢ちゃん」
テーブルに片肘をつき、首を傾げるような姿勢で言った。
「お嬢ちゃんは煙草も吸うのか?」
やけに、「も」の所に強いアクセントをつけて…
「吸わないよ!」
あたしが睨むと、からかうような目をした。
「じゃあ、何で喫煙席に座ってるんだ?」
「えっ?…長瀬さんは煙草を吸うかなって思って」
あたしの答えに大げさに驚きながら
「へぇ。お嬢ちゃんにも、多少の気遣いってもんがあったんだ」
こいつは、あたしに喧嘩を売りにきたのかしら。
「残念だが、徹は煙草吸わねぇよ」
「―――そう…あんたは?」
あたしが、睨みつけたまま聞くと。
「おれ?禁煙中」
ああ、そうですか。
わざわざ、喫煙席を選んだ自分が情けなくなってきた。
「長瀬さんがいらっしゃらないんなら、帰ります」
あたしが立ち上がりかけると
「で、いずみさんは実家に帰ってたのか?」
と聞いてきた。
「えっ?」
浮かせた腰を、また椅子に沈める。
「電話してみたんだろ?」
「何でそんな事知ってるの?」
真柴は、事も無げに言った。
「キャトル・レザンに行ったなら、当然実家の電話番号を
調べてくるはずだ。血気盛んなお嬢ちゃんの事だから
すぐさま、電話をして確かめたんだろう」
…癪だけどおっしゃる通り…
「それで、いずみさんはいたのか?」
真柴が質問を繰り返す。
あたしは、しぶしぶ答えた。
「いなかったわ」
「そうか…」
小さく呟くと、何事か考え込むように黙り込んだ。
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