第26話 決意

「は、はい!な・長瀬でございます!」

ワンコールの後に、緊張したような長瀬の声が響いてきた。

「…あの、片桐ですけど」

あたしからの電話を待ちわびていた。

そう言わんばかりの様子に、ちょっと気後れしてしまう。

「姐さん。お電話ありがとうございました」

なんか、言葉遣い変だし…

「それで…どうでした?」

長瀬がおずおずと切り出す。

「キャトル・レザンに行って、営業の佐々木さんって方に会ったわ」

「ああ、裕子さんですか」

”佐々木裕子”さんていうんだ。

名前で呼ぶほど、親しい間柄なのかしら?

そう言えば、佐々木さんも”徹哉くん”って呼んでいた…

「姐さん?」

「えっ?ああ…佐々木さん、送られて来た退職届はいずみさんが

 書いたものじゃないって疑っているみたいだったわよ。

 筆跡が少し違うんですって。

 それに、宛先も微妙に間違っているみたいだし…」

「…」

黙り込んでしまった長瀬。

実家にも帰っていなかった…そう伝えるはずだったのに、

あたしまで言葉を失う。

重い沈黙が続いた。

「ねぇ、会って話し出来ないかな?」

思わず口をついて飛び出した言葉に、自分でも驚く。

ほぼ初対面の男と会おうだなんて…

花菜子が聞いたら、きっと渋い顔をして『お節介焼き』って言うだろうな。

あたしは、ぶるんと頭を振った。

よし!

こうなれば乗りかかった船だ。最後まで付き合おうじゃないの。

「えっ?…いいっすけど…っつうか、いいんっすか?」

決意を新たにしたあたしは、声高に宣言する。

「勿論よ!

 必ず、いずみさんを見つけ出しましょう!」


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