第25話 確認

佐々木さんは5分程で、息を切らしながら戻ってきた。

「お待たせしました。これです」

A4のコピー用紙をテーブルに置いた。

『望月勝巳』

いずみさんのお父様の名前かしら?

その下に、住所と電話番号が書かれている。

「ありがとうございました。早速連絡してみます」

あたしがお礼を言うと、佐々木さんは微笑んだ。

「もし何か分かったら、私にも連絡してもらえませんか?

 会社の方に連絡があれば、私もお知らせするので」

その申し出をありがたく受け、連絡先を交換すると佐々木さんは

一礼して、副社長室を出て行った。

テーブルに残されたコピー用紙を手に取り、指先で電話番号をなぞってみる。

可能性は低くても…

あたしはスマホを取り出すと、思い切ってその番号を押した。

何度目かのコールの後、

「はい。望月でございます」

しわがれた女性の声がした。

「いずみさんはいらっしゃいますか?」

一瞬の間があり

「どちら様でしょう?」

「あ…えっと、櫻川と申します」

つい、忍の名前を出してしまった。

「…お嬢様は、こちらにはお戻りになっておりませんが」

素っ気無い返事が返ってくる。

覚悟はしていたものの、落胆は大きかった。

「もしもし?どの様なご用件でしょうか?」

「あの…どうもすいませんでした。失礼します」

あたしは、早口に告げると、そのまそのまま電話を切った。

さあ、これからどうしよう…


忍の顔が浮かぶ。

いずみさんは、実家にも帰っていなかった。

この事実は、落ち込んでいた忍に更に追い討ちをかける事に

なってしまうだろう。

―――きっと忍は、あたしからの連絡を待っているはず…。

分かっていても、あたしの指先は、忍の番号を押すことが出来なかった。

そうだ、先に長瀬徹哉に掛けてみよう。

彼なら、何か別の手がかりを与えてくれるかもしれない。

時計を見ると、お昼を少し過ぎた頃だった。

今なら、お仕事の邪魔にはならないかしら?

あたしは、長瀬の電話番号を検索した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る