第23話 望月いずみ

「いずみは私の三年後輩で、彼女が入社して半年ほど

 一緒に仕事をしていました」

佐々木さんは、人の良さそうな笑みを浮かべた。

「仕事の覚えも早いし、気配りもできる。

 真面目な良い子なんです。それが急に…一切連絡が取れなくなってしまって」

一瞬にして、その表情が曇る。

膝の上で組んでいた指を動かし、落ち着きなく視線を彷徨わせた。

きっといずみさんと佐々木さんは、とても良い先輩・後輩関係だったんだろう。

その仕草から、心配の程がうかがわれた。

「会社を辞めたいとか、そんな話をされた事は?」

そう尋ねると、大きく頭を振り、真っ直ぐにあたしを見る。

「来月発足するプロジェクトのメンバーに選ばれて喜んでいたんですよ。

会社を辞めるなんて絶対にありえません。それに、妙なんです…」

「妙?」

佐々木さんは、眉を顰めた。

「いくら辞めるにしたって、何の話も無くいきなり退職届を

 送りつけてくるなんて…あのいずみに限って、そんな事絶対に有り得ません。

 それに、字が少し違う気がして。

 いずみの筆跡に似せて書かれているように見えるんです。

 おまけに、宛名が営業部長になっていたし…」

「退職届って、社長宛に出すものなんですか?」

あたしの問いに、あわてて首を振った。

「いえ、そうじゃなくって。普通は所属上長に提出するものだから

 問題は無いんですけど…所属名が違っているのよね」

所属名って?いずみさんて、営業じゃなかったの?

「私達の部署は、通常『営業』って呼ばれてますけど、正式

 名称は『営業企画室』所属上長は『営業企画室長』になるんです…

 まあ、細かい事だけど、ちょっとおかしいなって思って…」

そう言ったきり黙りこんでしまう。

「あの…いずみさんの実家の電話番号を教えていただきたいんですけど」

沈黙を破るように尋ねると、佐々木さんは、はっとしたような顔をした。

「ああ、そうか」

大きく頷く。

「実家に電話してみれば良かったのよね…私うっかりしてたわ。

 いずみって、実家の話はほとんどしない子だったから」

そういえば、忍も同じような事を言っていた。

「長瀬さんとの交際を反対されていたからですか?」

ちょっと考え込むような仕草をすると

「いえ、もともとお母さんと折り合いが悪かったみたいで…」

「お母様と?」

あたしが聞き返すと、あわてて言葉を続けた。

「継母っていえばいいのかしら?お父さんの再婚相手…」



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