第22話 佐々木さん
ノックの音がした。
「入りなさい」
岩井のおじ様に促され、おそるおそるといった感じで女性が
顔を覗かせる。
庶務の佐々木さんは、背が高くほっそりとしていて
シンプルなブラウスとタイトスカートが良く似合っていた。
きれいにアップした髪が、いかにも”出来る女”風で恰好いい。
部屋に入るなり、緊張した面持ちでおじ様とあたしの顔を
交互に見つめた。
いきなり、副社長室に呼び出されたら、たいていの社員は
何事かと思うだろう。
あたしは、なるべくにこやかに微笑みながら立ち上がった。
「お忙しいところを申し訳ありません。私、片桐美月です」
「えっ?片桐って?」
「ああ、社長の娘さんだ」
その言葉に、佐々木さんの目がまん丸になる。
「今日は、望月いずみさんの事で伺いました」
「いずみの…?」
あたしが口を開きかけた時、デスクの上の電話が鳴った。
おじ様は、受話器を取ると、2,3言早口に告げ、あわただしく
電話を切った。
「美月ちゃん。ちょっと急ぎの用ができて、今から外出する事に
なった。今日は不帰社だから、この部屋は自由に使って構わんよ」
椅子にかかっていた上着を掴むと、せかせかとドアの方へ向かう。
「いろいろと、ありがとうございました」
あたしが頭を下げると、軽く手を振り部屋から出て行った。
おじ様の姿が見えなくなると、佐々木さんは幾分ほっとした顔をした。
改めて、向かい合わせに座り、話を切り出す。
「いずみさんの退職届が郵送されて来たって聞いたんですけど」
「誰からそれを…?」
驚いたというように、大きく口を開いた。
「長瀬さんて方、ご存知ですか?」
佐々木さんはその名前に、すぐ反応した。
「ああ。徹哉くん。なるほどね」
何度か頷くと
「私が、徹哉くんに連絡したんですよ」
と言った。
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