第17話 8代目組長
「嘘!だって、ちゃんと指10本あるじゃない」
思わず立ち上がり、大声で反論すると真柴は一瞬呆気とられた顔をし
その後、声を上げて笑った。
な、なんなのよ!何か変な事言った?
咳払いをひとつして、座り直す。
真柴は笑いを収めると、すっと真顔になり、組んでいた手の上に顎をのせた。
そのままの姿勢で、突き刺さるような視線を投げかける。
「人のシマにいきなり乗り込んでくるとは、なかなかいい度胸じゃねえか。
なあ、お嬢さん方。これだけ大騒ぎしたんだ、ただで帰れると思うなよ」
脅しのような…いや、脅し以外の何物でもない言葉にぞっとする。
花菜子達も顔色をなくし、呆然としていた。
静まり返った会議室。
唐突に、真柴の表情が緩んだ。
「冗談だよ。安心しな、堅気のお嬢様達には手出ししねえから」
冗談て…全然笑えないから…
「あの…」
長瀬が遠慮がちに、声を出した。
「いずみさん、どうかしたんすか?」
「あなた、本当に知らないの?」
忍が、相変わらずの上から目線で、金曜日の夜の出来事を語って聞かせた。
長瀬は、身じろぎもせずに忍の言葉に耳を傾けていた。
その顔色はみるみるうちに青ざめていく。
「今日、いずみさんの同僚から、会社に退職届が郵送されてきたって
連絡をもらって、心配してたんですけど…まさか、そんな事に
なってたなんて…」
あとは、絶句し俯いてしまった。とても嘘をついているようには見えない。
さすがの忍も、ばつが悪そうに黙り込んでしまう。
「とにかく、徹…長瀬の彼女が行方不明になったからって、うちに
押しかけてくるのはお門違いってもんだ」
真柴が冷ややかに、そう言った時
ノックの音が響き、スーツ姿のお姉さんが、お盆にコーヒーカップを
乗せて入ってきた。
「あの…お茶をお持ちいたしました」
真柴は、間髪入れず
「必要ない。お嬢様達はお帰りだ」
と言い放つ。
お姉さんは、驚いた顔をしてあたし達を見たが
「失礼いたしました」
あわてて廊下へと飛び出した。
真柴は立ち上がり、閉まりかけた外開きのドアを手で押さえた。
「さてと、お嬢様方。お帰りはこちらです」
これ以上、話す事は何もないと言わんばかりに、手のひらで廊下を指し示す。
屈辱と恐れの入り混じった目で、真柴を見ていた忍が黙って立ち上がり
廊下へと出て行った。
花菜子もそれに続く。
あたしも憂鬱な気持ちを抱えながら、ゆっくりと立ち上がり真柴の横をすり抜け
廊下に出ようとした。
―――――その瞬間。
ノブに掛かっていた手が離され、鼻先でドアが閉まった。
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