第15話 真柴涼

「何の騒ぎだ」

突然後ろから響いてきた声に、あたしは弾かれたように振り向いた。

ロビー中央に真柴涼が立っていた。

あたしに気付き驚いたような顔をする。

「お嬢ちゃん?ここで何をしてる」

つられて振り返った忍が、真柴の後ろに立っていた男に気付き、眉をつり上げる。

「長瀬徹哉!」

そう呼ばれた金に近い茶髪の、ワイシャツ姿の男は、大きな目をさらに大きく

見開いた。

この人が…?!

鬼の形相で長瀬に迫った忍は

「いずみお姉様をどこに隠したの」

と詰め寄った。

「へっ?いずみ?…ああ、もしかして忍…さん?」

「お姉様を返して頂戴」

今にも掴みかかりそうないきおいの忍の前に、真柴が割り込んだ。

「あなたが、この人の上司?」

「そうだ」

静かな声で答える。

「あなた、部下にどんな教育をしてるのよ。この人はね…」

「お嬢さん」

忍の金切り声を遮るように、真柴が言った。

「ここは会社のロビーですよ。もう少し静かにしていただけませんか」

その低い声には、有無を言わせぬ迫力があった。

思わず忍も黙り込む。

真柴は、まだあたし達を睨んでいた受付嬢に向かって

「第2会議室は空いてるか?」

と聞くと、受付嬢はすぐさま、PCに向かいキーボードを叩いた。

「はい、副社長。17時まででしたら」

真柴は頷くと

「お話しは、会議室の方で伺います。どうぞこちらに」

そう言い、先にたって歩き出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る