第14話 訪問
オフィス街の一等地に目的のビルは建っていた。
真柴建設。あたしでも、名前くらいは知っている。
建設業界では5本の指に入る一流企業だ。
正面玄関の自動扉を抜けると、広々とした明るいロビーが広がる。
壁には優しい色合いの印象派の絵画が数枚掛けられ、正面の
受付に置かれた大きな花瓶には淡いピンクを基調とした花々が生けられていた。
忙しく携帯で話をしているネクタイ姿の男性や書類の束を小脇に抱え
足早にエレベータに乗り込むスーツを着た女性、にこやかに名刺交換を
する中年男性達などの姿がなければ、まるでどこかのサロンにでも
いるような雰囲気だった。
そんな中で、制服姿の女子高生の存在は、明らかに異質だ。
「何時の約束なの?」
あたしが、小声で忍に尋ねると、不思議そうな顔をした。
「何の約束?」
「ええっ!もしかしてアポなし?」
忍は小首を傾げている。
「どうする…」
気後れ気味に、花菜子が囁く。
あたしは、黙って忍の顔を見た。
何の約束もなしに、会社に押しかけるなんて、あまりにも軽率すぎるのでは…
そんな事を考えていると、忍がつかつかと受付カウンターへ歩みを進めた。
「ちょっと、いいかしら」
忍は臆することなく、受付嬢に声を掛ける。
「はい?」
いきなり現れた女子高生に、受付嬢は目を丸くした。
「営業の長瀬徹哉を呼んでいただける」
「はぁ?」
「聞こえなかった?今すぐ長瀬徹哉を、ここに呼んで頂戴」
その、高飛車な物言いに、受付嬢の営業スマイルが強張った。
「失礼ですが、お客様は?」
「櫻川忍」
まるでその名前が、黄門様の印籠効果を有しているかのように力強く告げる。
対する反応は冷ややかだった。
「お約束はされていますか?」
「約束?いいえ。とにかく、櫻川忍が会いに来たから、すぐに来るように
伝えてくれればいいのよ」
ああ…言ってる事がめちゃくちゃだ。
受付嬢は、嫌悪の表情を浮かべながらも、事務的な対応を続ける。
「お約束のない方のお取次ぎは、いたしかねます」
忍は顔を真っ赤にして叫んだ。
「無礼者!」
ざわめいていたロビーが一瞬静まり返る。
あたしと花菜子は、あわてて忍を取り押さえた。
「ちょっと忍さん、落ち着いて」
”無礼者”呼ばわりされた受付嬢は席を立ち、物凄い目であたし達を睨みつけている。
まさに一触即発状態…
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