第13話 恋人
忍の自慢の車、ロールスロイス・ファントムの後部席に
並んで座りながら尋ねる。
「いずみさんが、彼氏に拉致されたって思う理由は何?」
忍は、ちょっと考え込んでから、口を開いた。
「彼は―
似つかわしくないっていうか…あまりマトモな方じゃないみたいだったから」
妙に”マトモ”を強調する。
「どういう事?」
ちょっと変わり者って意味かしら?
次の言葉をじっと待つ。
言っていいものかどうか迷っている様子。
忍の辞書に『ためらい』なんていう文字があるとは…意外だ。
やがて、意を決したように話始めた。
「…警察のご厄介になるような人物…
あ、でも今は立派に更正してるって笑ってらしたけど…
お姉様のご両親には、彼との交際を反対されたって悩んでいた
みたいだった」
「ねぇ、もしかしたら狂言って事も考えられない?両親を説得する為に
一時的に身を隠したとか…」
あたしの楽観的観測は、すぐに忍のしかめっ面に打ち消された。
「お姉様が私を騙すような真似するわけないでしょ。それに…」
忍は眉を顰めたまま、言葉を続ける。
「お姉様のご実家は、静岡でも有数の名家で、かなりの資産家らしいの。
だから、私…もしかしたらって…」
そこまで聞いて、あたしも忍の憂慮に思い至った。
「その”マトモじゃない”彼氏が、財産目当てにいずみさんを拉致した?」
いつになく神妙な面持ちで花菜子が言うと、途端に車の中の空気が重くなった
気がした。
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