第11話 拉致?

「何で、って分かるの?現場を見たの?」

忍は今にも泣き出しそうに、顔を歪めた。

「金曜日の夜、お姉様と携帯で話をしていたんだけど…」


忍は、日曜日に約束していたショッピングの待ち合わせ時間を

確認する為、いずみさんの携帯に電話をした。

いずみさんは会社帰りで、一人暮らしのマンションへ帰る途中だと言っていた。

時間は、午後8時頃。

待ち合わせ場所と時間を決め、お互いの近況などを話していた時―――――

電話口に、いずみさんの悲鳴が響いた。

「お姉様?お姉様、どうしたの?」

忍の呼びかけも空しく、唐突に電話は切れた。

すぐにリダイヤルしたが、電源が切られてしまったのか留守電に

切り替わってしまう。


「それ以降、何度掛けてもつながらないし、マンションにも帰って

 いないみたいだし…会社もお休みしてるようなの」

忍が俯くと、長い黒髪がさらさらと揺れ、顔を覆った。

俄かには信じがたい話だけど…

隣を見ると、花菜子も困ったような表情を浮かべている。

「実家には連絡したの?」

花菜子が聞いた。

忍は下を向いたまま、大きく首を振った。

「お姉様は、実家の話はしたがらなかったから、電話番号も分からない。

 だから、会社に聞いたんだけど、個人情報だからって教えてもらえなくって…

 お姉様は、キャトル・レザンに勤めているの」

それで納得できた。

忍があたしに頼みに来た理由が…

「お願い、美月さん。力を貸して」

こんなに動揺している忍の姿を初めて見た。

力を貸してと言われても…一体あたしに何が出来るんだろう。

犯罪が絡んでいるなら、やっぱり警察に任せるのが一番だと思うんだけど…

そんな、あたしの考えを察したのか

「警察は動いてくれない。成人女性の行方不明なんて、世の中には五万と

 あるって…死体でも出てこない限りは捜索なんてしてくれないのよ!」

最後の方は、悲鳴に近かった。

「とにかく…」

あたしは、なるべく優しい口調で言った。

「明日にでも、会社キャトル・レザンに行っていずみさんの実家の電話番号を

 聞き出してくるから…」

「美月!」

花菜子の咎めるような声が飛んでくる。

”仕方ないでしょ”あたしは、目で訴えた。

花菜子はあきらめたように、深いため息をつく。

「本当に?」

いきなり、あたしの手を握り忍が目を輝かせた。

「力を貸してくれるのね!」

頷くと

「じゃあ、今から一緒に来てくださらない」

「はいっ?」

「お姉様とお付き合いしていた男の所に行くの」

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