第10話 依頼

「美月?」

花菜子が、心配そうにあたしの顔を覗き込む。

ひとつ咳払いをして、改めて尋ねた。

「何しに来たの?」

あたしが不機嫌極まりない顔をすると、忍の表情が一変した。

気まずさと切迫した思いが入り混じった目であたしを見る。

「あなたにお願いがあるの」

「お願い?」

忍が、あたしに何かを頼むなんて、宇宙戦争が起きたってありえない話だ。

訝しげな顔をすると、手帳から一枚の写真を取り出し机の上に置いた。

覗き込むと、スーツ姿の女性と、制服を着た忍が腕を組んで微笑んでいる

スナップ写真だった。

後ろには満開の桜が写っている。

お花見の記念写真といったところだろうか。

忍は、一緒に写っている女性を指差して言った。

望月もちづきいずみさん。ご存知かしら?」

あたし達は、顔を見合わせて首を傾げた。

「大学部の人?」

花菜子が尋ねる。

「おととしフランス文学科を卒業して、今はお勤めしてるわ」

あたしは、もう一度写真を覗き込んだ。

ほっそりとした輪郭に、きりりとした眉。

センターパーツで分けられたセミロングのストレートボブが

知的な印象を醸し出す。

かなりの美人だが、綺麗な二重まぶたの目尻が、やや下がり気味なせいか

どことなく愛嬌がある。

「それで、この人がどうしたの?」

あたしが尋ねると、忍はぎゅっと眉根を寄せ、表情をこわばらせた。

やがて、思い切ったように口を開く。

「いずみさんを探して欲しいの」

「はい?」

意味が分からず、忍の顔を見る。

「3日前の夜から、行方が分からないのよ」

その声は、微かに震えていた。

花菜子が呆れた顔をする。

「だったら、こんな所でグズグズしてないで警察に相談する方が

 賢明だと思うけど」

あたしも頷いた。

「警察には行ったわよ!でも、全然取り合ってもらえなくて。

 失踪届けの提出を勧められて、おしまい。

 でも、お姉様は失踪なんかじゃなのよ。拉致されたの」

「拉致?!」

あたしと花菜子が同時に叫ぶ。

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