第7話 出逢いの夜(4)
振り返ると、真柴が店の横の壁に凭れかかるように立っていた。
手にピンク色のスマホをぶら下げて。
「忘れ物」
スマホを振ると、うさぎの根付ストラップが揺れた。
あっ、あたしの…
さっきおやじ様にメールを送った後、カウンターに置きっぱなしだった。
「すいません」
受け取ろうと手を伸ばした瞬間―――――
真柴はスマホを持った手を、スッと高い位置に引き上げた。
「え?」
見上げると、悪戯っ子のような視線とぶつかる。
「お嬢ちゃん、高校生だろ?未成年の飲酒は法律で禁止されてるんだぜ」
熱帯夜にも関わらず、その一言であたしは凍りついた。
なんで?なんで、そんな事知ってるの?
あたしは、伸ばした手を引っ込めると、2.3歩後ずさった。
得体の知れない、目の前の男に恐怖を感じた。
「これに懲りて、夜遊びもたいがいするんだな」
そう言うと、スマホを差し出す。
ひったくる様に受け取ると、そのまま振り向かず駅に向かって全力疾走した。
追いかけてくる気配はなかったが、あたしは足を止めない。
止めるのが怖かった…
息が上がり、足がもつれそうになっても、ひたすら走り続ける。
駅前のロータリーに停車していたタクシーの空車ランプが目に飛び込んできた時
あたしはやっと走るのをやめた…
「で、その真柴って男が、あんたの婚約者だったの?」
あたしは、大きく頷いた。
「今思うと、あいつは最初から、あたしの事知ってたのよ。
わざと知らん振りして、あたしを脅かしたんだわ」
思い出すだけで、むかむかしてくる。
「もしかして、あたしの事ずっと見張ってたのかも!」
「そんなはず無いじゃない。だってその人は、あんたが
店に入った時には、座ってたんでしょ?」
花菜子が、呆れたような顔をする。
「え…そうだけど…でも、偶然にしては話が出来すぎてない?」
「じゃあ、運命なんじゃない?」
現実主義者のはずの花菜子が、あっさりと言う。
「それで、その後どうしたの?」
「―――タクシーで家に帰って…寝た」
「もう!そっちじゃなくって、感動の再会の後よ」
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