ニートな俺ですが、天使になれますか?
酒井スナ
プロローグ
チュンチュンと鳴く小鳥のさえずりと顔を照らす朝日で俺、岩崎晴人は目を覚ました。
「んん...、もうこんな時間か..。」
頭元に置いてある時計で時間を確認すると、
針は午前8時を少し過ぎたところにある。
「あ〜あ、新学期初日から遅刻かぁ...なんてな。」
なんて自虐気味な冗談を言ってみた。
学校なんて行ってない。
別に虐められてたわけではなく、学校を少しサボろうと休んでみたら、日を増すごとに不思議と学校に行きにくくなった。
登校日数が危うくなって、久々に登校してみると勉学についていけず、再び休むようになった。
「まあ、遅かれ早かれだったのかもな。」
と言いながらスマホを手に取り、SNSアプリをチェックした。
当然、誰からの連絡もきていない。
「...何を期待してるんだか。」
スマホを床に投げながら呟いた。
学校を休むようになってからしばらくは『学校来いよ!』『今日もサボりか?いい加減にしろよ!(笑)』などの通知が友人達からきたものだが、最近ではめっきりだ。
当然だろう。
1年の終わり頃から休み始めて丸1年が経過した。
慰めのメッセージを送り続けるには長すぎる期間だ。
それに、高校3年生といえば受験の大切な時期。一応進学校であった俺の通っていた高校の友人達は不登校の俺になんか構っている暇なんかないだろう。
「さてさて、今日はどうするかな。」
体を起こし、自分の部屋を出てリビングに向かった。
朝食を食べるのだ。
俺はよくあるニートと違い昼夜逆転もせずに朝昼晩、規則正しく生活し、しっかりと食事も取るのであった。
「余計、タチが悪いんじゃないか?」
いや、親の目線からすると、愛する息子がちゃんとした生活をしてる分嬉しいことなんじゃないか?.....学校行ってないけど。
そんなことを考えているとリビングに着いた。
母が俺が起きたことに気付き、おはようと朝の挨拶をした。
俺はそれを受け、
「おはよう!!!」
と小学生さながら、元気良く返事した。
うん。朝は元気良くいかんとな。
こういうところも他のニートより優秀なニートといえよう。優秀なニートってなんだ。
「朝食、机の上に置いてあるからね。」
と、母の言葉を聞き、俺は朝食を食べ始めた。
うん、やっぱり朝はトーストに限る。
両親は俺が不登校なことに何も言わない。
正確には言わなくなった...だ。
俺が不登校になり始めの頃、両親は高校は卒業しないととか、本気で心配してくれていた。
だが、学校に行けという両親の言葉にウンザリした俺は「他にやりたいことがある。」と言った。
勿論、あるわけない。
しかし、その日以来、両親は「大学に行ってからはできないのか?」とは言ったものの、殆ど学校に行けとは言わなくなった。
こんなんだから、両親に対する申し訳なさが大きくなる。
いっそのこと殴って、怒鳴ってくれた方がスッキリするんだが。
食事を終えた後、俺は久々に外出することにした。
新年度を迎え、外出し、自分を見つめ直すのに良い機会だと思ったからだ。
外に出てみると、散歩するには丁度良い気温だ。
空気の匂いも何というか、春の匂いという感じで心地よく感じれた。
「9時30分か、まず学生は歩いてないだろうな。」
周りを確認する。
人影なし。
こんなところで同級生に会うなんてとんでもない。「おやおや、晴人君。最近どうかね?」「ぼちぼちでんなぁ(笑)」なんてやりとりには間違いなくならない。
気付かないフリをしてその場をやり過ごし、
その日1日、俺が働いているわけでもなく町をブラブラとしてたとかの話で盛り上がるだろう。...盛り上がりはしないか。
そんな、どうでもいいことを考えながらしばらく歩いていた。
「働くねぇ...」
と独り言を呟きながら、将来について考えてみた。
学校に行かなくなってからは何度となく、せめて真面目に働こうという考えはあった。
だけど高校中退、中卒の俺が働く場所なんてあるのだろうか?
仮にあったとしても特に取り柄もない俺がやっていけるのか?
そんな心配が頭の中にどんどん出てくる。
だが、どこかで変わらないと!
変化しない者は生きていけない!
変わらなければいけない時期がきた!
悩みを振り切るように自分を躍起した。
弱い自分とはサヨナラだ!変われ!
よし!変わる!いつからだ?今からだ!
そんな気合の信号が脳から口へと移動する!
「うぅおおおおおおおお!!!!!!」
やるぞ俺!輝け俺!もっと!もっと!
高めろ!己を!限界まで!
「クゥゥカッカカカァァァァ!!??」
とその時
キィィィィィィィィィッッッ
直ぐ隣に物凄いブレーキ音を鳴らしながら接近してくる車があった。
「(なっっ!!?車!?どうして!?)」
緊急下で思考だけが加速する。
見てみると、下には道路。前には信号。
どうやら気合を入れるのに集中しすぎて、周りを殆ど見てなかったらしい。
「(んなっマヌケな話があってたまッ..)」
ドンッッ!!!
その瞬間、激しい衝撃と共に視界が真っ白になった。
「(全身が痛い...何が、起きてる...?)」
周りが騒がしい気がする...。
薄っすらと映る視界には先程の車のドライバーらしき人が見える。
スマホを耳にかざしながら何かを叫んでるらしいが何も聞こえない。
体には1ミリも力が入らない。
今生きてるのが不思議なくらいだ。
「(あぁ...轢かれたのか。)」
今から死ぬかもしれないのに気楽な感想なもんだと自分でも思う。
だが、次第に痛みも感じなくなり、何故か心地よくまで思えてきた。
意識も遠のいていく。
「(死ぬのか..俺、ろくな人生じゃなかったな...。)」
「(もう少し早く、変わる覚悟ができれば..。)」
視界もシャットアウトし何も見えなくなってきた。
「(そういえば...この展開って、よくあるニートが異世界転生で無双..ってやつかな?)」
最後までくだらないことを考えているくだらない人生だった。
だが、本当にそんなことが起こりうるなら。
「(弱くていいから...、誰かを幸せにできる力をください...)」
そう思い残し、俺の人生はおわった。
ニートな俺ですが、天使になれますか? 酒井スナ @mewxx_00
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