第7話 約束を守る
夜ご飯を食べ終え、風呂にも入った。後は鳶雄たちが来るのを待つだけだ。
「…………」
実を言うと、私は少し心配だ。まだ鳶雄や茜たちが、別れを告げずに帰った私のことをどう思っているのかわからないからだ。
怒ってないなら、今晩ここに来てくれるだろう。
だが怒っているのなら……。容易にできるはずなのに、その先を考えたくはなかった。
私は時計を見た。もう十時だ。今時の中学生が何時まで起きているかはわからないが、少なくとも他人の家に上がる時間帯ではない。
コンコン、とノックの音がした。どうぞと言うと、入って来た。
「おやみなさん、来てくれましたか」
葉子や鳶雄だけではない。茜に裕唆に秘未心もいる。全員揃っている。
「まずは、私の事情を話しましょう」
私は話した。
「私は、あなたたちとの約束を守りに来ました。以上です」
「そ、それだけなのか…?」
鳶雄が言う。私は、
「言ったはずですよ。約束を守らないのは男ではないと。しかし私は君たちと、ホームスターを見ることをまだ果たせていません。今日はその為に来てもらいました」
と言った。本当にそれだけだ。それ以外には、彗星しか求めていない。いや、鳶雄たちが一緒でないなら、彗星すら観たいとは思わない。
「で、でも。お、親に連れ戻されたんでしょ? そ、そこは大丈夫なの?」
「ああ、それですか…」
真庭の家からすれば、黙っているわけにはいかない案件だ。あの二人が主人と女将に何と言ったかは不明だ。だが真庭家と錆街家は親戚同士。いずれは何かしらの連絡が、私の家にも入る。今回の宿泊は、その時に発覚する。あの二人は私を脅し、私はそれを破った。
「そもそもどうして戻って来れたの?」
茜が私に聞いた。
「病人として来るのが駄目なら、宿泊客として来ればいいだけですよ。昼間、宿泊費は現金で全額支払いましたし。この三日間は追い出される理由がありません」
それが、私が真庭の家に戻って来れた裏技だ。治らない病気の療養が無理なら、ただの観光客であればいい。実際に主人も女将も、それには反対しなかった。
だが、あの二人はこれに対しても激怒するだろう。
「秋学期からは、奨学金ですね。そして卒業と同時に、返す当てもない借金と出発ですよ」
私は自虐的に言った。鳶雄たちにはまだ早いのか、よくわかっていない顔をしている。唯一反応したのが葉子だ。
「暴論だけど、梟町に来れば? 天文台のリニューアルの案も、どうやら窓口を通りそうよ。颯武君のレポートの出来が良かったからね。お客が来なくても地域の研究機関として運営していくぐらいはできるわ」
「それなら、学芸員の資格を取らねばいけませんね」
葉子と私の会話に、鳶雄たちはついていけてない。私は適当なところで会話を切り、キャリーバッグからホームスターを取り出した。
「では、始めましょう」
部屋の照明を消し、ホームスターを起動した。真っ暗な部屋一面に、星空が映し出される。
「わああ…」
茜が声を漏らす。そう言えばプラネタリウムは、彼女たちは初めてだ。雲一つなければこんなに星が見れるのか、と裕唆が言う。もし彼らに本物のメガスターを見せたら、何と言うのだろうか?
私は星空の解説を始める前に、
「あの星座は、何というでしょう?」
問題を出した。するとすぐに鳶雄が、
「あれは、間違いなくオリオン座! そして右肩がベテルギウスで、シリウスとプロキオンと合わせて冬の大三角でしょう!」
ホームスターに投映させているのは、冬の夜空。私は引っかけ問題を出そうと思ったのだが、あっけなく突破された。
「満点の解答です」
鳶雄は星座に関する知識を、捨てていなかった。私はそれが嬉しかった。そして私は星座について、解説を始めた。それに鳶雄も加わった。私が得意げに話しをすれば、鳶雄もあれこれ指摘する。
一通り終わったところで、私はホームスターの電源を切った。
「今日はこれぐらいにしましょう。本番は明日です。明日に備えましょう。それにプラネタリウムはいつでも見れますが、シュトゥルム彗星は見逃すことは絶対駄目ですから」
私は五人を帰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます