第6話 戻って来た颯武
急な申し込みでも受け入れてくれるとは思っていなかった。相手にされないと思っていたが、そうではなかった。
「相変わらずですね。この町は」
私は葉子が運転する車で、駅から梟町に向かった。
「颯武君みたいに好き好んでやって来る人はまずいないから。ほとんどが夏場で、海水浴客よ」
しかしその夏も、もう終わる。今いる観光客は、夏の最後を満喫しているのだろう。
「私は別に好きで戻って来たわけじゃないですが」
海の方に目をやると、三原山が確認できた。それを見て、この町に戻って来たことを改めて実感した。
「…ゴホ!」
今のはただの咳である。しかし葉子が聞き逃さず、
「ねえちょっと大丈夫なの?」
と聞く。
「…私が思うに、前よりも酷くなった気はします」
あの人たちに会わなければ…。すぐに戻れなかったのは、病院通いをしていたからに他ならない。
そして主治医と相談し、三日間だけ許可された。私は与えられた三日を、梟町で過ごすことにした。
「なら、来ない方が体のためじゃないの?」
確かに前までの私なら、ほんの少しでも悪化したらしばらくは絶対安静にしていただろう。
しかし、今の私は違う。多少無理をしてでも真庭の家に行くことを思い、実行した。
「葉子さんやご主人、女将さんはそれを私には言えませんよ」
「それはわかってるけど。泊まってる間に悪化したら…」
「そうならないようにするために、明後日には帰るんですよ。本当に用があるのは明日ですけど」
私は車の窓から天を見上げた。雲の量から察するに、今日は晴天だ。だが天気予報によれば、夜は曇るらしい。
空は曇っても、私の表情は曇らなかった。今日は晴れていない方がかえって私には好都合だ。
雑談している間に、車は真庭の家に着いた。
「…お久しぶりですね。元気してましたか?」
女将が私に言う。
「病気じゃこんなこと、できませんよ」
あなたが連絡さえ入れなければ、とは口が裂けても言えなかった。
今回の私の荷物は前よりも少ない。それらを葉子に持ってもらい、私はまたあの部屋に案内された。
「一応、中には入れたけど、どこも壊れてないはず。鳶雄が昨日少し覗いてはいたけど…」
私は驚きを隠せなかった。鳶雄が望遠鏡を覗くとは、思いもしなかった。私は別れの挨拶を鳶雄にできなかったので、勝手に帰った奴と認識されていると思っていた。しかし鳶雄は、まだ星に興味を抱いてくれていた。
「…確かに、どこにも異常はありませんね」
私が確認する必要もなかった。
「これで彗星、見れるのよね?」
「明日…ではなく実は、もう見ることはできます」
「え?」
葉子が声を上げた。私は、最接近するのが明日であって、接近中のシュトゥルム彗星は、ちょっとした知識と技術があれば観測することはできると説明した。
「火星より少し赤く光っている程度なので、素人には難しいかもしれませんが」
「みたいね。きっとこの町にそれができる人はいないわ」
しかし今は私がいる。
「ただいま!」
玄関の方から声がした。鳶雄がプールから帰って来たのだろう。ドタドタと足音が聞こえる。私は居間に移動した。鳶雄もちょうどそこにいた。
「あ!」
当然鳶雄はビックリしている。
「な、な、な、何でいるんだ?」
私を指す鳶雄の腕は震えている。
「それは夜、私の部屋で説明しましょう。ところで茜さんたちも呼べますか?」
鳶雄は恐る恐る首を縦に振った。
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