第5話 感じる無力

 次の日も、その次の日も同じだった。最初は、今日こそ真面目にすれば大丈夫と自分に言い聞かせたが、実際には駄目だった。思いついた日の段階でサボってしまっていたので、次からやるが通用するはずがなかった。

ユウサやヒミコなんて、火山噴火や地震についての本を手に持っている。サボるなと言いたいところだが、鳶雄が持っているのは人工衛星についての本。怒る資格はない。

「トビオだけでも真面目にやってよ」

 アカネに怒られた。が、

「アカネが言えたことじゃないだろ! 何で温泉について調べてんだお前!」

 結局今日も収穫なしだ。


「ど、どうしようかね…」

 ヒミコが心配する。そうならないように鳶雄たちは努めるべきだったのだが。

「前にトビオが言ってた計画、使えないかな?」

 アカネの提案に、ユウサが何だそれはと聞いた。

「ほら。お姉さんに頼んで天文台に入れてもらうヤツ。颯武と一緒に行こうって話をしてたけど、彼が先に行っちゃったから実現できなかった」

「…なら、姉貴に頭を下げねえとな」

 姉に何を言われるかはわからない。だが何を言われても鳶雄たちには代案は思いつかないし、それしかないという確信がある。そして姉が許してくれるなら、一度颯武が入ったこともあって、自分たちも入れるはずだと思う。


「天文台に連れてって欲しいって?」

 鳶雄たちは葉子に頼み込んだ。

「俺たちだけじゃ、これ以上調べるのは無理がある。だから頼む! 天文台に行けば彗星について、何かしらわかるはずなんだ!」

 鳶雄が頭を下げると、アカネたちもお願いしますと頭を下げた。

 葉子は四人を数秒見て、

「わかった。上司に聞いてはみるけど、あんまり期待しない方がいいかもしれないわ」

「何でだよ?」

「だって、あんたは私の弟だからよ。颯武君は親戚と言っても家とはほぼほぼ無関係だし、大学生で天文学専攻だったから許可されたの。あんたは私の弟だから、今回は私情と判断されても文句が言えない」

 葉子は現実を突きつけるかのように、鳶雄に言った。

「隠し通そうって言っても、この町の中学生は十一人だけなのは知ってるでしょ? 人数が少ないんじゃ隠しようがないわ。いずれはバレるもの。それに中学生の勉学のためっていう理由からして、私の口から言えば鳶雄が関わっていることが透けて見えるし」

 アカネが急に顔を上げた。葉子の言葉に我慢ができなかったのだ。

「葉子さん、そこまで言わなくたっていいじゃないですか!」

「…私だって言いたくはないけど。大体颯武君が連れて行かれる原因を作ったのは、鳶雄なんだからね?」

「はぁ?」

 鳶雄から変な声が上がる。

「颯武君には私か鳶雄のどちらかとしか伝えてないけど、私には、治ったら帰ってもらうなんて言った記憶がないわ」

 この時初めて、鳶雄は自分が原因で颯武が帰ってしまったことに気がついた。立っていられず、その場に崩れた鳶雄は涙目だった。葉子はしゃがんで鳶雄に語り掛ける。

「そう落ち込まないの。誰だって最初の颯武君を見たらそう思うわよ。あんたが言わなければ私が言ってただろうし、誰も言わなくても母さんは連絡を入れてただろうし。こればかりは誰のせいでもないの」

 葉子の言葉があったおかげで、鳶雄は泣き出さずに済んだ。

「最善は尽くすから、後は神様に祈るしかないわね」

 天文台に入れてもらうよう葉子に頼んだ。そして葉子も役場に申請することを約束した。だが希望通りになるかは、わからないとのこと。

 鳶雄たちは、期待しないで待つしかなかった。

 ところが、次の日に予想外の客が現れた。

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