第3話 最悪の訪問者
だがその日は来なかった。正確には、日付はちゃんと変わったのだが…。私にとって不都合な出来事が起きたのだ。
私が朝ご飯を食べ終えて薬を飲み終わった時、主人と女将に、玄関に呼び出された。
「…何であなたたちがここにいるんですか?」
そこには、私の両親がいた。かなり不機嫌な顔をしている。
「すみません。家の馬鹿が勝手なことを」
私の父である人が、主人たちに言葉だけで詫びる。
「コレは今すぐ持ち帰りますので」
母である人がそう言う。そして私に荷物をまとめるように命令した。私は事態が全く理解できていなかったが、部屋に戻って片付けを始めた。
「………」
ホームスターも段ボール箱に詰め込んだ。葉子も手伝ってくれて、彼女はキャリーバッグに服を畳んで入れた。
「母さんが言うにはさ…」
葉子が作業をしながら事情を話してくれた。
事の発端は女将だった。私は病気療養という目的で真庭の家に来ているため、最初から治ったのなら帰ってもらうことにしたようだ。そして日に日に発作の回数が減っていく私を見ていると、病気が完治したのではないかと勘違いしてしまった。葉子か鳶雄のどちらかが、治ったら帰らせようと言っていたのもあり、女将はよりにもよって私本人でなく、両親に連絡を入れてしまった。
そこで私が病気療養のためではなく、実家に帰りたくないからこっちに来たことが発覚してしまう。
「親戚を使ってまで、自分たちに恥をかかせるつもりかって。電話で怒鳴ってたよ」
なぜそのような考えに至るのかは不明だが、きっと私がすることの全てが気に食わないのだろう。私の存在すら否定するような人だ。
「颯武君は、本当に帰っちゃうの?」
私は無言で頷いた。あの人たちがここまで来て私を連れ戻そうというのなら、従うしかない。口喧嘩という手段も普通の人には取れるかもしれないが、心拍数を上げられない私には、それをすると興奮してしまう為に争い事は避けるしかないのだ。
「もしかすると、資金援助も断ち切られるかもしれませんね。そうなると奨学金を借りて大学に残るしか…。この体ではアルバイトの類も無理ですし」
私があの人たちに素直に従ったのは、そういう理由だ。
全ての荷物を片付け終えると、玄関よりも先に二階に上がった。鳶雄に別れの挨拶をしなければ。
しかし鳶雄は部屋にはいなかった。そうだ、日中は大勢の海水浴客を避けるために学校のプールに行っているんだ。動揺していて忘れていた…。
鳶雄が帰って来るまで、あの人たちが待ってくれるとは思えない。挨拶は諦めて、荷物を持って玄関に向かう。
「望遠鏡はどうするの?」
葉子が縁側に置いてある望遠鏡を指差した。
「邪魔かもしれませんが、置いて行きます。元々そのつもりで買ったものです。それに荷物が増えては、あの二人は心地よい顔をしないでしょうから」
私は玄関を出て、車に乗せられた。真庭の家の人に最低限の挨拶すらさせてもらえずに、車は出発した。
数時間かけて二人が交代しながら車は高速道路を進む。私は窓の外をずっと見ていた。二人は私を持ち帰ると言ってはいたが、帰って来なくていいと言っていたのに実家に連れて行くだろうか?
予想は現実となった。車は私が通う大学の正門前で止まった。
「全く余計なことしかしない奴だ。二度と勝手なことをするなよ? 今度やったら、わかっているな?」
散々私に心無い言葉を浴びせておいて、この人たちは私のことを脅した。私から自由も奪う気なのだ。
荷物と私を降ろすと、車は実家に向かって走り出した。私はただそれを見ているだけだった。強制的に連れ戻されたことよりも、鳶雄たちとの約束を守れなくなることが悔しかった。
「ゴホ、ゴホ………ぐぐ!」
今さらになって発作が起きた。
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