第2話 深まる交友

 三週間なんて、あっという間だろう。しかし、楽しみにしていることがあると時間は中々進まない。私にできることは、せいぜい鳶雄の宿題のほんの一部を教えてやる程度だった。夜は望遠鏡を覗き、曇りや雨の日は自室で一人、ホームスターを起動した。

 一番時間を潰せたのは、鳶雄の自由研究だった。鳶雄は何も始めていなかったので、葉子が天体観測についてまとめればいいと提案した。私も快諾した。

 しかし私の教え方が悪いのか、それとも鳶雄の学習能力が高いのか、わずか3日で終わってしまった。早く終わったからと言って質が悪いわけではないが、専門学科ゆえの性だろうか。私は黄道13星座についてまとめるよう言った。

「13? 1個多くないですか?」

「占いに詳しくはないのですが、黄道にはもう一つ星座があるからそれも入れろと言っていた人がいたようです。それはへびつかい座で、誕生日が11月30日から12月17日の人が該当するようです」

 鳶雄はビックリして、

「お、俺です…」

 と言った。意外性を狙っての助言だったのだが、まさか目の前にいるとは私も思わなかった。

「ま、まあ。世界中の占い師はこれには反対ですので、あくまで参考程度ということにしておきましょう…」

 次の日には鳶雄はまとめ終わっていた。もっと星座について教えて欲しいと言うので、私は知っている88の星座を全て教えた。

「天文学者なら知ってて当たり前、ということではないのですが。私は星に関することは全て押さえておこうと思ったので、全部調べました」

 どうするかは鳶雄次第だが、彼は全部まとめ始めた。

 いくつか書き留めると、

「あれ。てんびん座は古代なのにカメレオン座は何で17世紀?」

 それに気がつくとは、いい勘を持っている。

「カメレオン座は南半球の星座です」

 私はまだそれしか言っていないのだが、鳶雄は、

「大航海時代に発見されたからか!」

 そう叫んだ。正確には、南半球の星空がマッピングされた時に、星座の隙間を埋める新しい星座が考え出されたわけだが。もちろんそのことを教える。

 二日後にはそれすらもまとめ終わった。さらに鳶雄の方からやれることを要求してきたので、私はアステリズムについて教えた。

「何ですかそれは!」

 一言で言うなら星群。簡単に言ってしまえば、非公式の星座のようなもの。星と星を線で結んで表現することが多い。

「代表例としては、北斗七星です。そのまとめには、入ってませんよね?」

 鳶雄は自分で作ったまとめを見返した。

「本当だ、入ってないです!」

「アステリズムの中には、公式に星座になっているものもあります」

「でも星座は、88個じゃないですか?」

「国際天文学連合に採用されているのが88個です。例えばケルべルス座。ヘルクレス座の一部にされてしまったので、現在は使われていないんです。もっともケルベルス座はアステリズムではありませんが」

 私もここは専門外で、上手く説明ができなかった。だが、

「つまり。公式の星座は88個。他にもかつて使われていた星座や、星群という恒星の組み合わせのパターンがあるってことですね!」

 鳶雄は賢く、すぐに理解してくれた。私は鳶雄の頭の良さを褒めたが、彼は私と仲良くなれたからと言った。


 勉強面以外でも、私は鳶雄たちと交流を深めた。彼らは晴れた日の夜になると必ず私のところにやって来て、そして天体観測を行った。

「明日の夜は曇りみたいですね」

 朝、天気予報でそう言っていた。鳶雄たちは残念そうな顔だ。毎日望遠鏡を覗いていたから無理もないだろう。

「浮かない顔して。颯武君にはホームスターがあるじゃない?」

 葉子が言うと、裕唆が、それは一体何だと聞いた。

「家庭用のプラネタリウムですよ。偽物ではありますが、部屋で星空を見ることができます」

 この町の天文台は五年前に閉鎖されているのだから、鳶雄たちはきっとプラネタリウムを見たことがないのだろう。

「そ、それって。ど、どんなものなの?」

「見てみたいなあ」

 プラネタリウムに憧れを抱く茜と秘未心。

「今はこっちを見ろよ。せっかく晴れているんだから!」

 鳶雄が叫ぶ。

「ホームスターはいつでも見れますし。それは明日にして、今はこの星空を堪能しましょう」

 私は空を見上げて言った。

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