第6話 約束しましょう
時刻は午後9時半。中学生にとっては遅い時間帯だろうか。私が同じぐらいの時は、ベランダから夜空を見上げて月を観察する程度のことしかしなかった。
縁側の横の庭で私は待機していた。望遠鏡は庭に設置はしたが、方角はまだ合わせていない。流星群は11時頃だ。それまでは他の星を観察することにしよう。
「颯武君の将来の夢は、決まったの?」
葉子が聞いた。私はまだですと答えた。
「何も明日帰るわけではないですし。ゆっくりと考えますよ」
庭の外側から、四人はやって来た。
「お、遅くなったわ」
秘未心が遅刻したらしい。私は全然かまわないと言った。
「わあ、アカネちゃんにユウサ君、ヒミコちゃんも一緒じゃないの! 鳶雄、一体どうしたの?」
鳶雄は葉子に聞かれて事情を説明した。鳶雄によれば彼は、一昨日の夜、私と葉子の間でした私の過去の話を廊下で聞いてしまったらしい。
「何やってるのよ!」
聞いた葉子は怒鳴った。
「盗み聞きなんて最低! あんた、何歳になれば善悪がわかるの?」
「鳶雄君が悪いわけではありませんよ。あそこで話していれば、意図せずにも耳に入ってしまうでしょうから」
私は葉子をなだめた。鳶雄にとってそれは本当に偶然の出来事だったのだろうし、私も真庭の家の方々に何も事情を話していないのだ。
「まだ、時間があります。他の星を見て暇を潰しましょう」
「なら、雑談もありね」
これから一時間半。私は天体観測をする気満々だが、葉子は違うらしい。それに鳶雄の誤解も解いてやらないといけない。私は適当な星に標準を合わせると、望遠鏡を葉子に譲った。
「それで。こんな時に、ですが。鳶雄君たちが私に何をしたんです?」
私は聞いた。今度は鳶雄は、ちゃんと答えた。
「俺は…。最初颯武さんのことが気に食わなくて。そんな人に夏休み中家にいて欲しくなくて。それで出て行ってもらおうと思って…」
「思って、何ですか?」
「何も…。石を投げ損ねたことぐらいしか…」
それだけのことで怒れとは、無理がある話だ。しかし罪悪感がある以上、怒らないで終わるわけにはいかない。
「それは、罰せられるべきですね」
四人は無言だった。だが顔には反省の色が見える。
「こんな罰はどうでしょう? 二度とそのようなことはしないと誓う。普通に聞くとただの約束ですが、いざ実践となると中々難しいのでは?」
私は誰かと約束事なんて普段はしないからこの難易度はわからない。だが、仲間がいる鳶雄としては、十分だろう。
「颯武さん、それだけで許してくれるんですか?」
鳶雄が不安そうに聞く。安心してくれ、私も鬼じゃない。理不尽なことは言わない。その苦しみは私が一番わかっているのだ。
「約束事だからといって、甘く見ないで下さいよ。約束を守らないのは男ではありませんから」
「守ります! 俺だってやるべきこととやってはいけないことぐらい、わかります!」
裕唆も、今後一切私のことを非難しないと言った。
「私は男じゃないけど、私だって守るわ」
「そ、そうしないと、謝りに来た、い、意味ないし…」
茜と秘未心も約束してくれた。
「では、この件の話はこれで終わりにしましょう。私も昼に、後から愚痴を言わないと言いましたし」
私はスマートフォンで時間を確認した。
「実は今日は、流星群が見れるんですよ」
「流星群って、隕石が降ってくるの?」
茜の発言は間違っている。それでは簡単に人類が滅亡してしまう。私はこの星空のある一点を指差して、
「この一点から、流れ星が大量に飛び出してくるんです。それが流星群です。その点に星座があればペルセウス座流星群とか、そのような名称で呼ばれるわけです」
それを聞くと裕唆が、星が燃えるのが見えるのだろうと言った。それも違うので私は、観測するのは小天体が大気の中でプラズマ化して発光するガスであると訂正した。
「じ、じゃあ、流れ星は、も、燃え尽きないの?」
「いや、燃え尽きますよ。そこで燃えなかったのが隕石と呼ばれるわけです。肝心なのは、小天体が大気圏で燃えている状態を指して流れ星というのではないってことです」
秘未心の質問にも答えた。彼らには少し難しい気もするが、私にも簡単に説明できる能力がない。知ってしまうとどうしても、端折るところがなくなってしまうのだ。
「そうだ颯武さん。大学生って頭いいんでしょ? 私あまり良くないから、進学できるか心配なんだけど…」
茜が脱線した。確かに中学生なら、将来のことについて心配することもあるだろう。私は答えた。
「そんな事ありませんよ。私は大学入試試験を受けてませんし。君たちも同じだと思いますが、センター試験というのがあります。私の大学は私立で、その試験で成績が良かった二教科で勝負ができる制度があるんです。幸いにも私は地学と世界史Bで満点でした」
それならやっぱり頭が良い、と裕唆が言うが、
「他の科目は勉強していたのに全て得点率が五割未満ですが。物理の点数は未だに公表できませんよ…」
遅刻や不正行為、マークミス等なしで、本当に0点なんて取ることができるのか、その時に知った。
「そ、それじゃあいいんだか、わ、悪いんだか、よくわからないわね…」
秘未心がそう呟いた。
「大学ってそんな感じのところですよ」
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