第4話 客人
何だって、とユウサは叫んだ。
「き、昨日、て、天文台に行ったって?」
ヒミコも驚いている。
「下っ端にはそんな事できないんじゃないの?」
アカネが言うもの無理はない。鳶雄だって役場での姉の地位は把握していないし、姉も教えてくれない。
「とにかく、昨日行ったんだって。専門家…の話を聞いてみたいだとか、学生の勉学のためだとか適当に理由を付けて。朝にはレポートも提出されたんだとよ…」
何かないかと考えるだけ考えて、結局たどり着いたのは颯武の無理にならないであろう天文台だった。既に閉館している天文台に入れてもらうために鳶雄はアカネたちと姉に土下座する覚悟でいたのだが…。
鳶雄たちはまたしても振り出しに戻ってしまった。
「でもまだ時間はあるのよね?」
それは心配いらない。大学生と中学生の夏休みは違うらしく、八月が終わっても颯武は少しは真庭の家に残るそうだ。
しかし鳶雄自身には、時間はあまりない。というより、長引くととても不利になる。昨日の夜ご飯の時に、姉と颯武が天文台に行ったことを聞いたが、動揺を隠せなかった。颯武が梟町にいるということは、裏を返せばそれだけ色々な場所に行けてしまうということ。しかも姉が許可しているのか、公共の施設にも行けるのだ。
中学生の自分には、颯武に対してできることが全くない。
「どうすればいいんだよ…。もう手詰まりじゃねえかよ……」
落ち込む四人。この日は全然泳がず、たったの一時間でプールから上がってしまった。
帰り道でも浮かない顔をしている。するとアカネが突然、
「もう直接会って、謝って、何かしようって聞いた方がいいんじゃない?」
と言った。
正直なところ、鳶雄もそれしかないと思っている。しかし颯武は、それを受け入れてくれるかどうか…。姉の話が正しければ、見た感じほど悪い人ではないと思うが…。
「ほ、他に何も思いつかないしさ。い、今、あんたの家に行ってみる?」
ヒミコが真庭の家に行くことを提案した。今日は晴天。姉が連れ出していなければ、颯武は一日中家にいるはずだ。四人は真庭の家に向かう。
素直に謝れば許してくれるだろうし、仲良くできるはず、とユウサも言う。ならばそれにかけよう。
鳶雄は玄関の戸を開けた。
「颯武君、お客さんよ」
女将に言われて私は部屋を出た。夏季休業中で、どこに行くとは誰にも言ってないはずなのに、私に客…。一瞬両親のことが頭をよぎったが、お客は四人であるらしい。最悪の可能性は消えた。
怠惰にも私は寝間着のままだったので、着替える時間をもらい、一度部屋に戻って服装を整えるとすぐに玄関に向かった。
玄関には、子供が四人。一人は男の子。二人は女の子。最後の一人は、鳶雄だった。
「一体何の用でしょう?」
私は聞いた。だが返事はすぐに返って来なかった。しびれを切らしておさげの女の子が口を開いた。
「颯武のお兄さんに謝りたいことがあるんです!」
彼女らから何かされた覚えは全くないのだが。背の低い男の子が鳶雄のことを突いて、何か喋らせようとした。
鳶雄が言う。
「颯武さん、ごめんなさい。俺、颯武さんの事情を知らないのに、この家から追い出そうとして…」
「そんな事ありましたっけ?」
これは鳶雄に不利にならないように言っているのではない。本当に心当たりがないのだ。実際に嫌がらせを受けたのなら話はわかるのだが、せいぜい石を投げられそうになっただけだ。仮に鳶雄が陰で私の悪口を言っていたとしても、それについて私が鳶雄を責めるのはおかしな話だ。
「と、鳶雄は相当反省してるの。ゆ、許してあげて」
髪が長めの女の子が言うが、怒ってないのに許すも何も、ない。
「一旦落ち着きましょう。まずは私の部屋にどうぞ。恐らくどこかで勘違いをしているのかもしれませんから」
私は四人を部屋に案内した。
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