第3話 知識

 葉子は星や宇宙について本当に無知で、月に関する様々なことを私に聞いた。

「月って自転するの?」

「その場で回るというよりは、地球に常に同じ面を向けて公転しています。だから月の自転周期と公転周期は同じなんです」

「月ってどうやってできたの?」

「巨大衝突…いわゆるジャイアントインパクトが有力です。昔の地球に、テイアという名の火星程度の大きさの天体が衝突して、そして形成されたという説です。しかし、学者の中には地球と月の成分構成から否定意見を出している人もいますよ」

「火星ぐらいの隕石がぶつかったの?」

「火星はそれほど大きくはありません。地球に一番近い大きさをしているのは、金星です。」

「なら金星を見てみたいわ」

「今は無理です。金星は地球よりも内側を回っているので、夜になると絶対に見れません。かと言って昼間は太陽が邪魔でやはり見えません。金星は、明け方か夕方でしか観察できないんです」

「そうなんだ。ねえ、太陽系に宇宙人っていると思う?」

「太陽系にはいないと思いますよ。でも、金星は小さければ、火星は大きければ、可能性があったかもしれません」

「どういう意味?」

「金星は小さければ温度が高くならず、火星は大きければ温度が低くならなかったからです」

 私は、葉子の質問には何でも答えることができた。

「アポロって本当に月に行ったのかな?」

「行きましたよ」

「でも中には嘘だって言う人もいるじゃない?」

「それは言う人の話が嘘ですよ。日本にはかつて、月探査機かぐやが存在しました。かぐやはアポロの痕跡を見事に捉えました」

「でもアメリカの国旗がなびいていたわ」

「月の表面は真空です。国旗を立てた時、反動で旗がなびいたんです。そして真空なので全く止まりません」

 都市伝説的なことでも、私の知識が勝った。


 しばらく質問攻めにされたが、私は何でも答えた。そうすると葉子の方が枯渇し、黙り込んだ。私も少し疲れたので縁側に腰を掛けた。葉子はしばらく望遠鏡を覗いていたが、私のガイドがなければ面白くないのか、私の隣に座った。

「そう言えば、母が怒っていたわよ。愛想が本当にないって」

 私は無言のまま、頷いた。それは本当のことで、否定する材料も意味もない。

 私が何も話さなかったので、葉子も無言だった。

「ちょっと、いいですか?」

 今しかない。私はそう思い、言った。葉子がいいわよと言って頷いたので、私は話を始めた。

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