第4話 姉
私は昨日、昔発作が悪化した時の話をしました。その時葉子さんは、ある一部を否定しました。私もそれを受け、訂正しました。しかし、やはり事実だったのです。
私が病院に運ばれた時、確かに両親は私に怒ったのです。姉は全く責め立てられませんでした。
何故なら、私が病気だったからです。
「それは、意味がわからないわ…」
私の家族は、四人家族でした。しかし、その中に私は不要でした。姉は両親の愛を受けて育ちました。対する私はいつも冷たい目を向けられました。
「つまり、病気の私には、両親は全く期待していなかったんです」
その証拠が、発作が悪化した時の、あの両親の態度だったんです。自分たちが期待している本命の、姉に迷惑をかけるな、姉の人生を邪魔するな。両親の考えはそうでした。これは物心付いた頃から感じていました。いや、私が病気を持って生まれた時から、生まれて来なければいいとすら思っていたのでしょう。私と両親との間には、生まれた時から溝があったんです。
私はその溝を一生懸命埋めようとしました。しかし、1ミリも埋めることができませんでした。両親がわざと深くしていました。
理由は姉です。姉は私と180度異なる類の人間でした。具体的に言えば、幼い頃から成績は優秀で、中学生になると常に試験の順位は一桁でした。中学受験も高校受験も、第一志望に受かりました。
対する私の成績は、お世辞にも良いと呼べるものではありませんでした。
しかも運動もできました。姉のお蔭で3回、運動会で優勝するほどでした。外で遊ぶ時は必ず味方につけなければいけないと言わしめたほどです。
私が体を動かせないのは、もう言う必要はないですよね。
人気もありました。私の家は裕福な方でしたから、洋服には困りません。姉は両親に与えられた服は何でも着こなし、時には自分で服を選ぶほどでした。そしてそれが似合っていなかったことはありません。同い年の男子から、何度も告白されたと自慢していました。
私の方はというと、発作が起きるのを恐れて友人を作ろうとしませんでした。ですから前に、葉子さんに友達が云々と言われた時、私はいませんと即答したのです。また他人と関わりがなかったので、発言で誰かを傷つけることもあると思います。
そして私と決定的に違ったのは、姉は無病息災だったことです。姉が寝込んでいるところを私は、見たことがありませんでした。対する私は、当時は発作の特効薬なんてありませんでしたから、毎月病院に行って、点滴を打って大量の薬を飲んでいました。姉が病院に行ったことがあるのは、かかりもしない感染症のワクチンを接種する時と、死ぬ間際だけでした。
「死ぬ間際?」
それを話していませんでした。
私の姉は既に故人です。私が中学生の時、交通事故に遭って亡くなりました。正確には、交通事故に遭った時点ではまだ生きてはいました。しかし意識はありませんでした。病院に搬送されて緊急手術を受けるも、回復の見込みは全くありませんでした。意識が戻ったのは本当に、今まさに死ぬという時でした。
その時に姉は、少しだけ喋ることができました。姉の最後の言葉でした。
あの時の光景は、今も鮮明に覚えています。
姉の体は包帯で巻かれて、所々血がにじんでいました。顔は傷だらけでした。
両親が姉の手をずっと握りしめていました。両親は泣いていました。
姉が目を開けました。両親は歓声を上げました。
しかし、すぐに現実が襲ってきました。姉の容態は、すぐに悪くなりました。
両親が姉の名前を叫びました。それに反応するように、姉は手を握り返したらしいです。
そして、ある一言を、言いました。
「なん、でりゅう、ぶじゃ、な…くて…。わた…し……な…………の…?」
言い終わると、同時に姉の心臓は永遠に止まりました。
両親は、姉の言葉に黙って頷きました。自分の代わりに私が死ねば良かったと?
私には、一時の同情には見えませんでした。そしてその通りだったのです。
姉の死後、私は中学に進学しました。そこで私は、出来る限りの努力をしました。しかし両親は、一度も褒めてくれませんでした。
「
「希望はこんな問題に苦戦しなかった」
「希望は部活でも全国大会に行くほどだった。対するお前は無所属とは笑わせる」
「希望は常に親の手伝いを進んで行った。お前は言われないと何もしてくれないのか」
「希望は人望があった。でもお前は一緒に給食を食べる友達すらいない」
「希望は常に笑っている子だった。なのにお前は全く笑わない」
「希望は感情豊かだった。お前は顔が死んでいるのか」
「希望は何でもできる子だった。お前は歩くことしかできないがな」
「希望は常に冷静だった。お前のはただ単にやる気がないだけだ」
「希望はどんなことにも文句を言わなかった。それでもお前は嫌だと言うんだな」
「希望は…」
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