第5話 少し昔の話

 もう数年ぐらい前の話。私には姉がいた。姉は私とは正反対の人間で、いつも外で遊んでいた。

 ある日のことだ。姉が外で遊ぼうと言った。私は幼い頃から自分の病気について知っていたので、もちろん断った。

 だが姉の考えは違った。少しぐらいは平気と言って、無理矢理私を家から連れ出した。公園には、姉の友人が大勢いた。誰か一人が抱えていたボールはサッカーボールだった。人数が揃ったところで試合開始となった。

 サッカーでは常に動いていなければならず、それで私の心拍数は上がってしまった。だが当時は、タブレット端末はなく、私の心拍数も管理もされていなかった。おまけに発作の特効薬もない。

「ゴホゴホ。…ゴホッ!」

 私は咳をした。しかし姉は大丈夫と言って無視した。

 その後の記憶は、私にはほとんどない。気がついたら病院のベッドで寝ていて、腕にはチューブが繋がれていた。

「何で外で遊んだりしたんだ!」

 私は両親に叱られた。かばってくれる人は誰もおらず、私の言い分も何も聞き入れてくれず、一方的に説教をされた。私はただ、打ちのめされた。

この一件以降、私は両親の怒る顔に恐怖を覚え、そして他の人に同じ思いをして欲しくないと感じ、他人と関わりを持ちにくくなった。


「ぐっ…。ゴホ!」

 発作が起きた。昔のことを思い出しただけで。

「大丈夫?」

 私は薬を取り出した。口に運んだ時、女性が親切に水を持ってきてくれたので、それで飲んだ。そして胸に手を当てながら、追加の薬を飲んだ。

「平気です」

「それちょっとおかしくない?」

 女性が言う。私は何が変なのか聞いた。

「連れ出したのはお姉さんなんでしょう? だったら叱られるのは、お姉さんの方じゃないの?」

 私は…。

「よく考えたら変ですね。私の記憶違いでした」

 と言った。

 本当は間違っていない、とは言えなかった。

 この後私は、女性に南の星空についてシャンメリーを飲み干すまで話した。チマチマ飲んでいたので、気が付くと十二時を回っていた。

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