第16話:真実の大志2

 「今から授業は眠いぜ~」

 「でも次の授業は出前授業だから起きとかないとだめよ」

 「あれ、今日だったのか」

  昼食を食べ終え、まもなく昼休みが終わる。

  相変わらず昼食後の眠気は犯罪的だ。

  しかし、次の出前授業というのは出席しなければ教師になることはできない。

  それほど重要な時間なのだ。

 「今回はどこから来るのかしらね?」

 「進学校の校長とかじゃないのか?」

  出前授業は職種問わずいろいろな価値観、理解を深めるために行われる。

  したがってどのような職種の人が来るのかまったくもって謎なのだ。

 「とりあえず眠たくならないようにグループ活動が多い先生だといいわね」

 「本当だな、神に祈っておこう」

 「出たわね、都合のいい時にだけ神頼みするやつ……」

  そしてちょうどチャイムが鳴った。

  チャイムが鳴り終わる一秒くらい前に、教室の前のドアが勢いよく開いた。

 「……!」

  すごい鋭い眼光だ。

  というか全体的に威圧感を感じる。

  まず身長が百九十センチくらいありそうだ。

 「あら、これはすごい人がきたわね……」

 「春々、知り合いか?」

 「知り合いというか知らないのは教也くんくらいだと思うわ。まあすぐに自己紹介するでしょう」

 「だな」

  男は大きなカバンを教卓の横に置いた。

  重そうな音が教室内に響き渡った。

 「諸君、今日はよく来てくれた」

  野太い声である。

  あれ、なんか聞き覚えがあるようなないような……

 「この一週間、授業を担当する金岡だ。よろしく」

 「よろしくおねがいします」

  全員の目が期待に満ち溢れている。

 「なあなあ春々、もしかして本当に俺だけが知らないんじゃないか?」

 「絶対にそうだと思うわ……」

  簡単な自己紹介が終わり、さっそく授業が始まろうとしたとき怒声が響き渡った。

 「なにしにきやがった……!」

 「……今から授業だ、座れ」

 「ふざけるな、質問に答えろ!」

  教壇に男が近づいていく。

  それは俺もよく知っている人物だった。

 「なんでカイトがあんなにもキレてるんだ?」

 「息子だからかしらね」

 「息子!?」

  確かによく見たら似ている。

  カイトの身長が高いのは親譲りなんだろう。

 「私は教えるためにやってきたのだ。やる気がないなら出ていけ」

 「ああ、言われなくてもそうするよ!」

  カイトはそのままドアを乱暴に開け、教室から去っていった。

  教室に妙な空気が漂う。

 「じゃあ始めるぞ。さっそく教科書を開いてくれ」

  今日の朝にもらった教科書を開ける。

 「てかさっきのことについての説明はないんだな……」

 「まあしないみたいね」

  正直このまま授業を始めても内容は全く入ってこなさそうだ。

 「まあ仕方がないか」

  今俺がカイトのことを追いかけて行っても共倒れするだけである。

  おとなしく、この授業を乗り越えてから考えることにした。


 「みなさん、カイトさんが帰ってくるまで待ちませんか?」

  六時間目が終わり放課後になった。

  カイトはいまだに帰ってきていない。

  しかし荷物は机の横にかけてあるのでいずれは教室に帰ってくるはずなのだ。

 「随分星海ちゃんはカイトくんにやさしくなったわね」

 「まあ模擬授業の時にお世話になりましたからね……ってなんで顔がそんなににやにやしているんですか!?」

 「いやー、なんでもないわよ」

  春々が含みのある笑顔で星海をからかう。

  その表情から二人の仲の良さが見て取れる。

 「咲花からみてもあの二人は親友に見えるか?」

 「……話しかけないで……」

 「まじかよ」

  カイトの心配をする前に自分自身の心の心配をしなければならないかもしれない。

 「あ、カイトさんが帰ってきましたよ」

  ドアを開け教室に入ってきたカイトはお世辞にも顔色がいいとは言えなかった。

 「君たち、どうしたんだね?」

 「そりゃカイトくんのことを待っていたのよ」

 「僕のことを? 放課後になってるのに?」

 「ええ」

 「ありがとう、僕は本当に幸せ者さ」

  照れ隠しをするように笑うカイトの目からは涙の跡が見て取れた。

  果たしてその涙はどの感情が容量オーバーを起こしたものなのか、わからない。

 「カイトさん、私たちは今回の出来事を詳しく知りたいんです。そして協力したいんです。だって仲間ですから」

 「星海ちゃん……」

  カイトのことはまだ気に食わない。

  それでも俺たちの仲間には変わりないし、俺も星海の件から反省して最初から力になりたいのだ。

 「……私も知りたい……」

 「咲花ちゃんまで、ありがとう」

 「咲花がそんなこと言うなんて珍しいな」

 「……別に……」

  どういう意図があって咲花は知りたいのかは知らないがともかくこれで全員の意見は一致した。

 「カイトくん、よければ今からファミレスにでも行って話を聞かせてくれるかしら?」

 「ああ、いいとも」

  俺たちはカイトから詳しい話を聞くためにファミレスへと移動した。

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