第14話:現実の先に待つ大志6

 「答えは溢れた容量は外へと放出されるのさ」

 「……つまり涙ってことですか?」

 「そう、その通りだよ!」

  カイトは指で音を鳴らす。

  意外と音は響かなかった。

 「つまり自分の心を保つために星海ちゃんは涙を流したのだよ。恥ずかしいことではないよ」

 「……でも、私ってなんで涙を流したんですか?」

  おそらく原因としてはやはり失敗してしまったという後悔の感情だったのだろう。

  しかしそれをこの場で口に出して言うのは少々ためらってしまう。

 「それは平との出来事がそれだけ大きく、星海ちゃんにとって大事だったということだよ」

 「私が……教也さんを……大事……!?」

 「その解釈はあっているのか」

  どう考えても単語のくっつけ方を間違っている気がする。

 「もしかして……星海ちゃん!?」

 「いえいえ、何でもないですよ!」

  胸の前で何度も手を振る。

  俺は拒絶されているのだろうか。

  というか公開処刑はやめてほしい。

 「まあ平のことが好きかどうかはともかく、それだけ星海ちゃんにとって大きなことだったからほかの人にも想いが届いたのだと思うよ」

 「わわ、なにカイトさんはっきりと言っちゃってるんですか!?」

 「教也くん、許さない……」

 「俺関係ないだろ」

  ただもちろん好意を持たれて嫌なわけではない。

 「まあそのおかげで模擬授業が成功したのだろう。今日は祝賀会だな」

 「賛成よ!」

 「よし、そうと決まれば近くのファミレスでもいこうか!」

  カイトと春々は席を立とうとしたが……

 「ちょっと待ってください!」

 「どうしたんだい、星海ちゃん?」

  星海が俺たちのことを呼び止めた。

  それはいつになく大きな声だった。

 「私、一つ決心したことがあります」

 「なにかしら?」

 「私、来年教師を目指すのやめることにしました!」

 「ええ!?」

  一同が驚く。教師をあきらめるということは今回の模擬授業で自信を無くしてしまったということなのだろうか?

 「なぜ教師を辞めてしまうんだい?」

 「いえ、別に教師は辞めないですよ」

 「へ?」

  まぬけな三人の声が同時に響き渡った。

 「今回の模擬授業で自分の未熟さを理解しました。今のまま教師になっても生徒を不幸にするだけです。だから大学で勉強して、卒業してから教師になろうと思います」

  その瞳から迷いがみられない。

  おそらく十分に考えたうえでの結論なのだろう。

 「星海、それがお前の大志なんだな?」

 「はい! やっと私も大志を抱けたような気がします!」

  今まで何に対してもよそよそしかった星海だが模擬授業で変われたように思える。

  大志を抱いた星海はどんな困難があっても乗り越えていける、そう思えた。

 「じゃあ星海ちゃんの大志祝いで今度こそファミレスに行きましょうか」

 「おー!」

  人の成長を感じた模擬授業。

  そして俺自身も成長することができただろう。

  卒業まであと一年をきっているがまだまだ一緒にいたい、そう思える仲間との時間だった。

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