第13話:現実の先に待つ大志5
「OK,now let‘s start it!」
星海の元気な声が響き渡る。
たった一言だけどそれだけで完全に教室内の注意を星海にひきつけた。
「Hello,Everyone.」
順調に星海の模擬授業は進んでいく。
発音も非常に流暢で緊張している様子は見られない。
きっと教師に力って楽しんでいるということなんだろう。
おれたち三人は正直心の中でもう模擬授業は成功すると確信していただろう。
しかし神様はそんな星海に試練を与えた。
「I will tell you one story.」
彼女は俺との出来事を英語で語ろうとした。
ここは本来パソコンを使って写真や音楽を使う場面だった。
しかしパソコンを教室に接続しているのにスクリーンに表示されなかった。
「え、なんで……」
思わずずっと英語で話していた星海から日本語が漏れる。
星海はその後も一人でパソコンを操作したが一向に映ることはなかった
「え、え、どうしよう……」
クラス内の雰囲気がざわざわしだした。
トラブルで授業が止まったことによって集中力が切れてしまったのだ。
「教也くん、まずいわね……」
「ああ、予想外だ」
もしこの場面で俺たちが手伝ってもいいのなら状況は一変するかもしれない。
しかし、これは模擬授業なのだ。
いかなる理由があっても生徒にパソコンを触らせることはできないのだ。
「俺たちにできることはないのか……」
何とももどかしい時間が流れる。
しかし俺たちにできることは映ることを祈るということだけだった。
「う、う、うう……」
星海を見ると今にも泣きだしそうな顔をしている。
さっきまでの自信はその姿を完全に隠してしまった。
「You should speak without laptop!」
「……!」
そう発言したのは席に座っていたカイトである。
彼は流暢な英語でパソコンなしで話してくれと言った。
その言葉は星海にとって難しいかもしれない。
なぜなら話すだけで生徒に訴えかけるのは非常に難しいからだ。
しかしすべきことを指示された星海にとっては願ってもないチャンスにも思える。
「Mr.kaito,Thanks!」
星海の目に再び光が戻った。
彼女は生徒である私たちに一つの物語を語り始めた。
それは仲間と衝突し、それでもあきらめないで思い続け、結果としてすべてがうまくいったという話だ。
いろいろと手伝ったりリハーサルとかでも俺たちはその話を聞いたが、初めて聞く生徒たちにとってそれは大変興味深いものだったのだろう。
先ほどまでざわついていた教室がすっかり静かになっていたのだ。
やがて星海の話が終わった。
その目からは嘘でもない、本当の涙が流れていた。
周りを見てみると彼らの中の何人かもまたその話に感動の涙を流していたのだ。
それだけ彼女の思いが強く、伝わったということなんだろう。
「OK,now time is over. Thank you for attending!」
やがて星海の模擬授業は終わった。
時間配分は予定より長くなってしまい、パソコンも動かなかった。
しかし彼女はハプニングを乗り切った。
そんな彼女に俺は尊敬した。
「森野、模擬授業お疲れ様。みんなは森野の授業どうだった?」
ほとんどみんなが同じことを思っているだろう。
彼女の模擬授業は最高であったと。
授業を終えた彼女の背中がなんだか大きく見えた。
「いろいろ学ぶことがあったと思うからな、この感想用紙に感想を書いて提出してくれ」
配られた感想用紙を手に取ってみるとそれは二百語程度しか余白がなかった。
「提出した奴から帰っていいぞ」
続々とみんなが提出していく。
しかし俺は裏面まで書いていたので提出するのはかなり最後のほうになった。
しかしその時、うれしいこともあった。
「……お前ら」
提出すれば早く帰ることができる、だからみんな適当に書くことが多い。
しかし教室に残っていたのは春々、カイト、そして星海だった。
「やっぱり最後まで僕の感じたことすべてを書きたいからね」
「ええ、わたしもよ」
彼らの文字は見えないくらい小さく、そして書かれていた。
そこから俺たちの絆というものが見て取れた。
しばらく待っていると、全員が書き終わった。
俺たちはそのまま家に帰らず、模擬授業の準備の時のように教室に集まった。
しかし、今回はいつもと違い星海の席の周りで行うことにした。
「みなさん、本当に最初から最後までご協力いただきありがとうございました!」
「ううん、仲間として当然のことよ」
「ああ、その通りだ」
「僕の活躍が大きかったね」
相変わらずのうざさだけど今回のMVPは間違いなくカイトだろう。
素直に俺はうなずいておいた。
「ほんと、カイトさんは授業中にも助けていただき感謝感謝です!」
「あれくらい当然のことさ」
「私も助けてあげたかったけどとっさに英語が出てこなかったわ」
俺とまったく同じ理由で心の中で笑った。
これが腐れ縁の力なのだろうか?
「カイトさんのおかげで泣かずにすむと思ったんですけど結局泣いちゃいました」
清々しい笑顔で俺たちに語りかけてくる。
彼女の目の下にはクマができていた。
「容量オーバーだったんだろうね」
「どういうことですか……?」
カイトは席を立ちあがり教壇に立った。
「容量オーバーとは心のことさ。僕たちの心は個人差はあるけれどそんなに大きいものではないんだ」
「なにこれ、心臓の話?」
「教也くん、そんなわけないでしょ」
「ですよね」
ボケを一瞬で玉砕されてしまった。
やはり幼馴染というものは容赦がない。
「感情というのは心の中にたまっていくものだからね」
「まあそりゃそうよね」
「じゃあ心の容量より大きい感情が起きたら人はどうなると思うかね?」
「難しいわね」
「ああ、さっぱりわからん」
俺たちはしばらく考えたが結論は出なかった。
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