第10話:現実の先に待つ大志2
「ただいま」
「あれ、お兄ちゃん? 今日は午前中で授業終わりなの?」
紗枝は制服のまま玄関まで来てくれる。
おそらく特別支援学校では今日、午前中で授業が終わったのだろう。
「ああ、午前中で終わりなんだ」
俺は靴を脱ぎ部屋へと向かおうとしたが……
「あれ、お兄ちゃん、かばんは?」
俺は紗枝にそう呼び止められたが無視して部屋まで向かった。
「ふう、やっとひとりになれた」
俺はベットの上で目を瞑る。
頭が冷やされたのか、随分と気持ちが治まってきた。
「もしかして言いすぎたのか、俺は……」
確かに言い過ぎたのかもしれない。
しかしあれは誰が見ても星海が悪かったと思う。
「今日は春々来るかな……」
あんなことした後だから今日は来ないかもしれない。
「そうなったら紗枝にも迷惑をかけてしまうな……」
下に降りて紗枝とゲームをして待っていたが、結局インターホンが鳴ることはなかった。
「……はぁ、学校に行かないとだめだよな」
朝ご飯を食べながら深々とため息をつく。
昨日あんなに喧嘩をした後なのだから正直学校に行きたくない。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「ああ、なんでもないよ。それより朝ご飯ごめんな」
春々は朝も来ていない。
なので朝ご飯はスティックのパンのみだ。
「別に大丈夫だよ。それにしても春々さん、何かあったのかな?」
「……さぁな、今日聞いておくよ」
「うん、よろしく! 春々さんが来ないと寂しいしねっ!」
紗枝の発言を聞き罪悪感に襲われる。
俺は紗枝をバスに乗せてから歩いて学校へ向かったのであった。
「さて、どうやって入るか」
先生にはあとで別室に呼び出されることはさておき、クラスの空気を悪くしたくない。
幸い昼休みに事件は起きたので、目撃していない生徒もたくさんいるはずだ。
「……俺らしくないな」
考える時間があったら行動しろ、昨日似たような発言をしたばかりじゃないか。
俺は教室のドアを開けた。
なんだかいつもよりも重く感じた。
「教也くん……」
「ああ、なんだ、君か」
「……!」
各々違った反応を示す。
昨日の今日ということもあってなにかぎすぎすとした空気が漂う。
「よ、よう、おはよう」
できるだけ平然とした態度を振舞う。
「そんなことより教也くん、何か言うべきことがあるんじゃないのかしら?」
春々の視線が星海に向く。
彼女の目は赤く腫れていた。
「なんだよ、おれが全部悪いっていうのかよ!」
違う、俺が言いたいのはそんな言葉じゃないんだ。
「教也くん……、変わってしまったのね」
そのまま春々は席へと戻った。
「平、本当にそう思っているのか?」
「ああ、カイトはそう思うだろ!?」
どこかわかってくれると思っている自分がいた。
そこには何の根拠もないはずなのに。
「いや、僕はそうは思わない。どうやら平を買いかぶりすぎていたようだ」
カイトも席へと戻る。
最後に残されたのは俺と星海だ。
「星海……」
「口もききたくありません」
星海は一度も目を合わせずその場を去ってしまった。
残されたのは俺ただ一人。
「なんだよ……」
やりきれない気持ちのまま席へとつく。
前までは話の場となっていた席の周りも今ではその輝きを失ってしまった。
普段やり慣れていない俺は窮屈な姿勢でふて寝したのであった。
「……ただいま」
「おかえり、お兄ちゃん……ってめっちゃ疲れてるっぽいけど大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ」
学校についてから別室で昨日の無断で早退したことについてたっぷりと反省文を書かされた。
腱鞘炎になってるんじゃないかというくらい俺の左手は書きなぐった。
さらに昼休みもあの面子では食べにくいのでいわゆるトイレ飯をしていた。
何が楽しくて学校に行っているのかわからない。
「紗枝、学校に行ってて楽しいか?」
何も知らない紗枝に問いかける。
俺自身紗枝にどんな答えを求めているのかわからない。
「そうだね、やっぱり友達かな! 何でも話せてそばにいるだけで楽しくなる、そんな友達といるだけで幸せなんだ!」
「友達……か」
「なに、お兄ちゃん。もしかしてソウルフレンド探しているの?」
「えらいかっこいい言い方だな……」
でも俺が求めているのはそうなのかもしれない。
「でもお兄ちゃんにもいるじゃない?」
「え?」
「春々さんだってソウルフレンドだと思うよ!」
確かにあいつとは昔からずっと一緒にいる。
フレンドというよりはファミリーのほうが近い気がする。
「それに、最近のお兄ちゃん、とっても学校に行くの楽しそうにしてたよ! きっと学校で新しいソウルフレンドでも見つけたんじゃないかと思うの!」
「紗枝……」
確かに昔と比べて今はとても楽しい。
それは春々やカイト、そして星海のおかげなのかもしれない。
「ああ、確かに紗枝の言うとおりだよ。そして今そのソウルフレンドとけんかをしているんだ。相談に乗ってくれるか?」
「うん! どんと任せてよ!」
ない胸をたたく紗枝。
まだまだ子供なのに、大人な子だと実感した。
俺は紗枝に今回の出来事を話した。
理解した紗枝は一つの疑問を俺に投げかけてきた。
「お兄ちゃんは星海さんが努力もしてないのに諦めていたから怒ったんだよね?」
「まあそうだな」
「じゃあお兄ちゃんは星海さんを手伝う努力をしているの?」
「……してない」
もちろん、最近の状況から考えてそれはかなり難しいだろう。
「だめだよ、お兄ちゃん! そこは手伝ってあげなきゃ!」
「なんでだよ、星海自身の問題じゃないないか」
「じゃあお兄ちゃんは学校の先生になったとき困っている子がいたら放置するの?」
「それは……」
そういわれるといたい。確かに学校でそんなことをしたら即クビだろう。
「きっと先生が生徒を突き放したらダメなんだよ。生徒のことを最後まで根気強く応援するのが先生なんだと思うよ」
「紗枝……」
「きっと今頃星海さんは必死に勉強していると思うよ。模擬授業のためにね。今本当に努力をしていないのは誰なの?」
「俺……だ」
俺は興奮状態のあまり正常な判断ができてなかったのかもしれない。
あの時の星海はネガティブ思考になっていたが努力していないわけではない。
教師になったってすぐに生徒の努力が結果に結び付くわけではないのだ。
「……ありがとう、紗枝。おかげで目が覚めたよ」
「お兄ちゃん……」
俺は紗枝の頭をなでる。
もう迷わない、おれがやるべきことはただ一つだ。
「部屋に戻るよ!」
「……うん! お兄ちゃん、頑張ってね!」
階段をダッシュで上る。時間が惜しい、そう感じたからだ。
「必ず成功させてみせる!」
その日、俺は一睡もすることなく作業に明け暮れたのだった。
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