第3話:大志の根源2
「もう落ち着いた? 私の自己紹介していい?」
「どうぞ」
春々は席を立ち俺たちの前に来る。
「はじめまして、私は桜木春々(るる)っていうの。そこにいる教也くんとはずっと昔からの幼馴染よ。よろしくねー」
「春々ちゃんって言うのか。よろしくね」
カイトが馴れ馴れしく名前で春々のことを呼ぶ。
初対面なのに名前で呼ぶなんて本当に気に食わないやつだ。
「うん、よろしくね。じゃあ次はあなたかしら?」
「わ、私ですか……?」
「まあ時計回りだしね」
「はい……」
女の子は大きく息を吸い込む。
そういえばさっきから俺たちがけんかをしているときもまったくこの子は介入してこなかったな。
「えっと、私は森野って言います……」
「……」
「……」
「え、もしかして終わりなのかな?」
「ほ、ほかに何か言うことありますか……?」
「えっと、そうね……」
春々が必死に質問を考えている。
まあおそらくこの子は対話が苦手なんだろうな。
「あ、そうだ! 下の名前はなんていうの?」
「えっと、星の海と書いてあいかと言います……」
「星海ちゃんね! よろしくねー」
「はい、よろしくお願いします……」
森野は少し戸惑っているようだ。
もしかしたらあんまり名前で呼ばれたことがないのだろうか?
「星海ちゃんか、とってもきれいな名前だね」
「お前、女の子だったら誰でもいいんだな」
「なんだ、またやんのか」
「教也くーん、カイトくーん?」
春々が笑顔でにじり寄ってくる。
目に光が宿っていない。
これはやられる、瞬時に俺の脳はそう判断した。
「ううん、なんでもないぜ、次は俺の番だな」
「あ、うん、そうだね」
瞬時に話題のすり替えに成功した。生きているってすばらしいな。
「さっきから春々に名前を呼ばれまくっているが俺の名前は平教也だ。俺のことは好きに呼んでくれてかまわないぜ。よろしくな」
「平か、しっかりと覚えておくぜ」
皮肉めいたカイトの発言だがこれ以上突っかかったら俺の命が危ない。
きっちりスルーするという技を習得した。
「さて、自己紹介が終了したけど次は何をするのかしらね?」
「さあな」
しばらくして他の班も終わり、先生がおもむろに口を開いた。
「よし、みんなオッケーか? これが来週の課外学習の班になるからちゃんと連絡先は交換しておけよ」
「え、来週!?」
あまりにも急の出来事にクラスは混乱する。
しかも配られたしおりに目を通すとどうやら一泊するらしい。
「しかも内容が書かれていないなんて、中々パリピな学校だね」
「それは使い方あっているのか」
唯一書かれていることは、午前九時に学校の近くの港に集合するということだけである。
「港って、魚釣りでもするのかしら、星海ちゃん?」
「え、はい、そうですね……」
春々のキラーパスに森野が何とか反応する。
「まあもう決まってしまったことは仕方がないしな。四人で楽しんでいこうぜ」
「あら、教也くん、中々リーダーみたいな発言するわね」
「うるせっ」
まあでもこの班になったのも運命だしな。
どんな小さなイベントでも大志を抱かないと怒られちゃうからな。
「よし、じゃあ僕らの成功を祈ってみんなで手を重ねようじゃないか」
「お前、女の子に触りたいだけだろ……」
カイトは一番最初に手を出したが、春々と森野は手を出さない。
仕方がないから俺が手を出した。
「なんて不名誉なんだ……」
「それはお互い様な」
続いて春々、森野の順番で手を置いていく。
なにわともあれ全員の手がつながった。
「よし、じゃあ来週の課外学習、がんばるぞ!」
「おー!」
全員の声が教室内に響き渡る。
このときの俺はこのメンバーなら何でも乗り越えると思っていたのだった……
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