理由(2)

「ぎゅー」


 少女は浴槽の中で男に抱きつく。


「なんだよ」


「楽しいなぁ~て」


「...そうか」


「ねぇ」


 少女は少し離れ、真面目な顔になり、聞いてくる。


「なんであの時、私を『殺さなかった』の?」


 『殺さなかった』、その単語が出た瞬間、男は空気が重くなるのを感じていた。


「あの時、俺はアリス・ホワイトという人間を殺した、お前はもうアリスじゃない。」


 誰が見ても明らかに普通とは程遠い話、いや、少女の容姿を見ればそれだけでおかしいことに気が付くのかもしれない。


 整った顔、染めるという行為では出せないであろう綺麗な金色の髪、透き通った青い瞳。

 少女の名はアリス・ホワイト、この国のプリンセス、王女様だ。


「今のお前はあいつじゃない、お前はただの殺し屋に誘拐された可哀想な一般人だ」


「むぅ~」


 少女は納得していない様子でむくれている。

(俺がこいつを殺さなかった理由か...なんでだろうな)


 考えて分からないことは分からない、そう自分に告げて男は考えるのをやめた。


「とりあえず上がるぞ、そろそろ辛くなってきた」


 男が立ち上がり浴槽から出ると少女は「あっ逃げた!」と言いながらまだ怒っている様子でお風呂場を後にした。

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姫と殺し屋(仮) 十色 @sorairo2

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