第2話

石ころがあたりに散らばっていて、なにかが崩れ去ったのだけは確かだが、なにかはどこにもない。横断歩道をわたり車道に沿わないでまっすぐ進むと住宅街に入るはずだ。



どこまでも見渡せて黒い雲に抱きしめられた青い山が目に入る。家が無くなったんだとユリヤは認識した。はじめから気がついてはいたが、因果を結びつけることができた。マンションは消えていた。一軒家は消えていた。公園は消えていたけど、広場としてだけ残っていた。息をするたびに舌にはりつく空気を涎とともに吐き出した。灰色の涎だった。



通学路は人目につくように設計したルートであり、商店街に入ることになっていた。この商店街は、この地域で育った先生いわく、ずいぶん静かになったらしい。よくあることだとも言っていた。近くにダイエーができたときは、子供ながらになぜ彼らが頭を抱えてある者は昼から泣いていたのか分からなかったが、シャッターが下りていくのをみて進学先は県外が良いかなと考えたらしい。

商店街は灰が舞っていて、テナントに入っていたコンビニのバイトとおぼしき大学生が呆然としていた。


なんで? とユリヤに聞くからなんでだろ、とだけ答えて学校に向かう。

ユリヤは知らなかったが、シャッターがおりたところで、そこを住居にしていた人たちは多い。彼らは一様に熱線を浴びて灰になり宙に舞った。


ぜえぜえと舌を出した犬がけたたましく吠えるから、家から持ってきたシャウエッセンを一つあげた。頭を撫でてやると、左の腹の毛が一部分だけ失われているのを目にした。


首輪のドッグタグにベルカと丸みを帯びた字で書いていた。別の字体で住所が書かれていた。この住所はよく知っている。この通学路の途中に大きな看板を出している行政書士の家があり、そこがクリスマスでもないのに年中サンタさんのオブジェが飾っているのだ。そして、そこは先の崩れ落ちた住宅街の中にある事業所だった。その辺りで飼われていた犬がどうしてこんなところにいるのかユリヤは知らなかった。


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