石礫の通学路

古新野 ま~ち

第1話

地を割らんかの大きな揺れが夜明けに襲いかかり、不安を感じつつの登校はユリヤに否応もなく吐き気を催させた。びちゃびちゃと胃液と朝食を吐き出しながら横断歩道を渡っていると、唖然としながら徘徊する老人と視線が交差した。額から血を流しているのをみた。ユリヤはこの老人を知らないが、気味の悪さを臓腑でとらえた。


ユリヤは知らないが、この老人は高槻光信という。御年77歳で少し前に喜寿の祝いをしたばかりである。妻のシノブが今日の朝、寝床から出てこず声をかけて布団をめくると芋虫のようなブニョブニョした生物に全身を食べられていて、そのうちの一匹が光信に牙を剥いたため慌てて逃げ出した。しかし、1分も走れば骨が砕けるのではないかという痛みに襲われ会社員時代にドクターストップがかかるまで吸ったマイルドセブンのせいもあってか呼吸さえままならない。


かつては野球少年であった。裕福な友達の家でみた野球選手の豪快なスウィングに魅了され、やがて高校生になると、人生で1番の努力をした。当時は未整備だった山道を1時間以上、ときには1日中走った。基礎体力に走り込みはかかせない。雪の降るなかで、感覚が麻痺したのかそれとも鋭敏になったのか、夢の中のような肌への刺激は今でも思い出せる。


同じ部だった竹内の誘いで運送会社の配達員となってからの人生が長かったが、しのぶの胸を初めて舐めて一物を挿入したときの記憶は濃厚である。その体は失われた。


よしなしごとが頭に浮かび続けて、足がもつれてしまい、額をしたたかにぶつけた。

ユリヤは知らないから登校する。光信の腹を突き破って芋虫が2万匹ほど溢れだしたが、ユリヤの知らないことだ。街は豪雨に呑まれ、その名残かのような曇天が地上に垂れ落ちて飲み込むようなくらいたちこめる。ユリヤは折り畳み傘をさした。




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