救出

 神座があったのは、黄泉にある神社のようなところだった。


(ここが黄泉。ずいぶん明るいところだな?)


 祠の予想に反して黄泉はとても明るく、現代的な印象を受けた。


(とりあえず、探すかぁ……? 黄泉の様子も見てみたいしな~)


 こうして、祠は未知の領域である黄泉をブラブラすることにしたのだった。


(ていうか、まず神座探さないと祓たち見つけても帰れねぇ!)


 どうやら神座は一方通行のようで、こちらに来るときに使った神座では戻ることは不可能だった。


(神座探すって言ったって、どこにあるのか……。しっかし、全く黄泉要素ないんだが……)


 黄泉を回る祠は改めて感じた。商店街や、スーパーのようなもの、明るい看板に電光掲示板のようなものまであったのだ。


(どこもかしこも上と同じじゃねぇか! 唯一違うのは雰囲気が暗いくらいか……?)


 しかし明るいメイン通りを抜け、一本奥の道に入ると死神に魂を抜かれ生気が感じられない人々が多くいた。


(これは様子を聞くのも無理か……?)


 半分諦めつつ、祠は黄泉の住民に尋ねた。


「あの、この世界の中心はどこなのでしょうか」


 住民は無言のままうつろな目で一点を指差した。


(あそこか? また大きな……)


「ありがとうございます~」


 住民に教えてもらった建物へと、祠は向かったのだった。


(あそこが中心なら、祓と鳴沢はあそこにいるはずだ……)


 祠の足取りは自分でも気付かぬうちに早まっていた。そのとき、先を急ぐ祠の足が止まった。


(あそこ、鳥居か? さっき来た神座は神社の中にあった。つまり、もう一つの方も神社の中にある可能性もあるよな?)


 その鳥居の方向へ足を進めると、そこには先ほど見た神座とそっくりなものがあった。


(これで帰りは安心だ。――待ってろ、今助けに行ってやる。無事でいろよ……)


 そして走り始めて数分、祠は大きな建物の前に立ち止まった。


(ここか。中に、きっと迦楼羅も、禊もいるはずだ……)


 そして一歩踏み出そうとしたとき、祠は背後から聞こえた声に悪寒が走った。


「残念、そう簡単には行かないんだなぁ~」


 祠の記憶はそこで途切れた。





「ん……」


 目を覚ますと、祠は鎖で繋がれていた。


(くそっ、油断した。ここはあのでかい建物の中か? 見たところ牢のようだが……)


「あっ! 起きたぁ? 君よく寝てたねぇ、3日くらい寝てたかな?」

「乱っ!」

「あれ? 僕の名前知ってたっけ? まあいいや。おはよう~」


 だんだん意識がはっきりしてきた祠は、自分の状況を悟った。

 手は鎖に繋がれ、足には枷、しかしかろうじて銃などは残っていた。


「俺をどうするつもりだ」

「いやだなぁ、そんなに怖い顔しないでよ~。なにもしないよ? ただ、ちょっと血を分けてもらうだけ」


 乱は祠のシャツのボタンをプチプチと外していった。


「何をする気だ。いい加減にしろよ」

「だからちょっと味見させてもらうだけだから~。大人しくしてて!」


 乱の手は止まることなく、はだけた祠の首元を切りつけた。


(ってぇ……)


 顔を歪める祠に乱はニヤニヤと笑いながら謝った。


「あれ? 痛かった? ごめんねぇ~。んじゃあ、いただきます!」


 乱は流れてくる血液を舐めるのではなく、傷口の周りを押し、さらに血液を流れさせ、その血液を試験管へと集めた。


「こんなもんかな? よしっ、ありがとう! じゃあもういいよ~」


 そう言った乱は指を鳴らし祠の拘束を解いた。


「そうか、んじゃあこっちからいこう」

「ふぇ?」


 突然伸びてきた祠の腕に乱は対応できていなかった。


「ちょっと! 何するの!? 離して!」

「離して欲しかったら祓たちのところまで案内しろよ」

「そんなの案内しなくたってわかるよ! ここにいるもん!」

「良いから案内しろって」

「わかったよ……!」


 乱に案内され着いたのは祠のいた牢から一番遠い牢の中だった。

 その中にいたのは祓だった。


「八神さん!? どうしてここに?」

「祓っ! なんでってお前を助けに来たに決まってんだろ。鳴沢はどこだ?」

「阿玖斗さんは今寝てます。助けに来たって――無理ですよ! 僕生気を取られたんです。穢された。もう、戻れないです……」


 ガックリと肩を落とす祓に、祠は勝ち誇った笑みを浮かべた。


「これのことだろ?」

「――何でそれを!?」


 祠が取り出したのは先程とられた祠の生気。そして、乱の持っていた祓の生気だった。


「さっきあいつから盗ったんだ。それにこれは生気じゃねぇよ。だからお前は、帰れるぞ」


 祠はその血液の入った試験管を割り、さらに靴で踏み潰した。


「あー! せっかく美味しそうだったのに……!」

「乱!? 何で八神さんと一緒に……?」


 祠の後ろから現れた乱に、祓は目を丸くした。


「俺が連れてきた。ここまで案内されたんだ。鳴沢、起こせるか?」

「あ、はい! 今起こします!」


 祓が阿玖斗を起こしにかかると同時に、祠は乱を脅し、牢の鍵を開けさせた。


「よし、これでいけるな。大丈夫か? 鳴沢」

「――ああ、問題ない。軽い貧血だ……」


 阿玖斗の顔は真っ青だった。


(こいつはやばいかもな……)


「じゃあ戻るか」

「戻るって、どうやって……?」


 祓は不安そうな顔で祠を見上げた。


「大丈夫だって言ったろ? 黄泉に来てから一通り回ってみたんだ。もう見つけてある。いいから、ついて来いよ?」

「はい……?」


 自信満々な祠が阿玖斗を背負い、祓を連れてきたのは、先ほど見つけた黄泉から元の世界へと戻る神座だった。


「なんですか、これ?」

「これで戻れるんだよ、俺もこれで来たんだ。ここに乗ってろよ?」

「はい……」


 祓の返事を聞き、祠が神座に乗ると、来たときと同じく光を放った。


 ただひたすらに落ちていった行きとは違い、帰りはエレベーターのように上に昇っていた。

 そして黄泉に到着してから3日後。

 祠は、頭の上に疑問符が浮かんでいる祓とぐったりとしている阿玖斗を背負い、乱を拘束したまま、司神局へと戻って行ったのだった。

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