死神派
(あいつ! 死神派かっ!!)
死神に魂を穢された者は、
(ってことは、鳴沢も祓も黄泉に連れて行かれたってことになる。厄介なことになったな……)
祠は困ったように頭を掻いた。というのも、黄泉へと向かう方法がわからないのである。
(死神派は突然どこからともなく現われ消える。死神だってそうだ。どこからきたのか、どこへ消えるのか、俺にはわからない。そしておそらく誰も。――いや待てよ? あの人なら……)
あの人と言うのは、司神局で働いている祠でさえ噂でしか耳にしたことがない、司神局創設者の
(神籬さんは当の昔に死んでるけど、資料は司神局に残っているはず……!)
祠はすぐに上司へと連絡し、司神局へと引き返した。
時刻は11時を回っていた。祠は司神局に着くと、資料室へと急いだ。もう残って仕事をしている者など居ない時刻だけあって、パラパラとページをめくる音だけが響き渡った。
(ここじゃない、ここでもない……。一体どこにある!?)
「くそっ!」
いくら探しても神籬の資料はどこにもない。苛立ちのあまり、祠は壁を殴った。
「おお、荒れてるな」
「っ!」
振り返った祠の目の前に居たのは阿玖斗の異母兄弟であり、祠の直属の上司でもある、
「あ、雨夜さん……。すみません、夜遅くに」
おそらく自宅から急いできたのだろう。蛟は私服だった。
「いや、大丈夫だ。こちらこそ遅れてすまない。連絡をもらって驚いたよ阿玖斗が攫われたんだって? 厄介なことになった。さて、八神くん。君はこれからどう動く?」
「祓と鳴沢を
祠の言葉に蛟の目線は鋭さを増した。
「――正気か? 確かに、神籬梓は黄泉への研究をしていたと伝えられている。しかし、それはあくまで噂だ。それにあそこはもう、司神局の管轄ではない。いくら君でも、帰ってこれるという保証はないのだぞ?」
心配とも、警告とも取れる表情で言う蛟に、祠は凛とした表情で向き直った。
「わかっています。全て、承知の上です。私は千早さんに祓を託されました。それは祓だけではなく、禊もだと思っております。こんな好機はありません。黄泉の中に入ることができれば、何か情報をつかめると思うんです。祓と鳴沢、2人とも私が連れて帰ります。ですから……!」
懇願する祠の肩はわずかに震えていた。
「――仕方ない。ついてきなさい」
「え?」
「神籬梓の資料を見せてやろう」
「あ、ありがとうございます!」
「勘違いをしないことだ。君が犠牲になって阿玖斗達が帰ってくるなど言語道断だからな。行くからには、必ず、必ず3人で帰ってこい」
祠に背を向けている蛟の背中は憂いに満ちていた。
(そっか、この人だって腹違いとはいえ弟が攫われたんだ。平気なわけはねぇよな)
「ここだ」
道場を通り過ぎ、蛟に連れてこられたのは祠でも滅多に来たことのない司神局のさらに奥の区域だった。
(こんなところ初めて来たな。あったのも知らなかった……)
祠が不思議な表情でキョロキョロしていると蛟が部屋の鍵を開けた。
「ここは私の自室だ。厳重な極秘資料だけを集めている。ここの鍵を持っているのは私だけだ」
(雨夜さんが直々に資料を集めてるなんて……。あの噂は本当だったのか)
「雨夜さんが直々に集めている、ということは。やはり、司神局にスパイがいるという噂は本当だったんですね」
祠の口から出た言葉に蛟は一瞬驚いた顔をした。
「そうか、噂になっていたのか。一応隠していたはずだったのだが。しかし、誰が
「誰が間者かわかってるんですか?」
「ああ、阿玖斗が攫われたのはいい機会だ、君には教えておこう。間者はこいつ。
蛟は写真を取り出し、空を指差した。
「あ……」
「どうかしたか?」
祠は空よりもその隣の少年に目を奪われた。
「こ、こいつ……」
「ん? ああ、こっちはまだ素性が掴めていないんだ。しかし空が言うには“弟”のようなやつらしい。こいつがどうかしたのか?」
祠は体中から嫌な汗があふれてくるのを感じた。
「こいつ、祓の道場に。乱って呼ばれてたやつです……!」
「乱……?」
「はい、私はそいつに祓が攫われたのではないかと考えています」
「では阿玖斗は空に?」
「おそらくそういうことになるかと……」
蛟はふむ、と頷いた。
「わかった。そのことはさらに調査を進めるとしよう。ここの鍵は君にも渡すことにしよう、ここを好きに使っていい。黄泉への安全な行き方、そして明確な戻り方を考え、わかったら私のところへ来なさい」
そして祠は、絶対に祓と阿玖斗を助けるという使命感に駆られていたが、蛟に諭され、ひとまず帰宅した。
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