第9話

「ほんとにそれだけ?」

「あぁ」「左様でございます」

 ようやく理解してくれたようだ。

「で?」

「はい?」「まさか⋯⋯!」

 なんか嫌な予感が⋯⋯

「とりあえず、あとどれくらいかかるの?」

 あれ? ここでお約束の罰ゲームじゃないの?

「あと8時間くらいは⋯⋯」

「じゃあ寝るわね。おやすみ」

 眠たかったから機嫌が悪かっただけなの?

「あの⋯⋯」

「寝たかっただけなんでしょうね」

 やっぱり。

「旦那様もおやすみください」

「大丈夫なんですか?」

「私どもは交代で寝てますので。

 若い方(今はコックピットにいる方)は左手の親指を立てている。

「じゃあ、お言葉に甘えて⋯⋯」

 そして、着陸間際に起こされたのだと思った。

「おーい」

「ん?」

 こんなに寝起きがいいことはなかったと思う。

「夜ご飯食べないの?」

「あぁ食べる。」

 何故か移動させられて座ると

「⋯⋯どうやって食べんの?」

「えっと⋯⋯こうしてああしてぽんって感じ。」

「分かるか!」

「それでは私が代わりに」

 初めていい人だと思った。

「我ながらに美味しゅうございます」

「って何食べてんじゃい!」

「はい?」

「いや、なんで食べてんすか⋯⋯」

「誰も貴方様に食べさせるなんて言ってませんが?」

 やっぱりさっきの撤回。この人最悪だわ。

「確かにそうですけど⋯⋯」

「何か食べたいものはございますか?」

「ハンバーガー食べたい!」

「かしこまりましたお嬢様」

「どんだけ食うんだよ⋯⋯」

 結構な量があったはずなんだけどな・・・

「旦那様もハンバーガーでよろしいですか?」

「構いませんよ」

「では作ってまいります」

「よろしく」

 と言って彼女はワイングラスの中身を飲む。

「それ、お酒じゃね?」

 明らかに色がジュースではない。

「そ〜んなわけ〜ないでしょう〜」

 酔ってる。絶対あの人間違えたよな?

 まだ1口だから大丈夫か?

 いや未成年にアルコールはまずいだろ。

「あら。眠ってしまいましたか」

「あなたがワインを注いだせいですけどね」

「え?ワインなんて⋯⋯」

 彼女のグラスに入っている液体の香りを嗅ぐ。

「あれま〜!」

「あれま〜じゃないですよ! ヤバくないっすか?」

「全くアルコール入ってないので、大丈夫です」

「はい?」

「普通のジュースに色素を加えただけですよ?」

 紛らわしいことしやがって!

「じゃあ彼女は⋯⋯?」

「ただ単に疲れて寝ただけです。」

 寝すぎだろ、こいつ。

「とりあえず、シートに縛り付けておいてください」

 言い方悪いな⋯⋯

「縛り付けるって⋯⋯」

「着陸するんで早くベルト締めてください」

 いや、分かるんだけどさ。

「着陸許可おりません!」

「なぜです?」

「分かりません!」

「なら、100万払うと言ってください」

 またお金で釣るのかよ⋯⋯

「106万ならいいそうです」

 微妙だな! 俺だったらそこで300万とか言うけどな!

「どうしようかな⋯⋯」

 迷うの!? 何億も普通に払ってたくせに6万で迷うの!?

「燃料があと3時間しか持ちませんが」

 3時間もありゃ、大丈夫じゃね?

「もう少し待ってください」

「払っていいわよ〜」

 寝ぼけてる!?

「かしこまりましたお嬢様」

「着陸許可おりました」

「それじゃあ、降りますか」

 色々あった空の旅が終わりを告げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る